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 「過酷」と聞いていた介護施設の夜勤の現場を密着取材した。介護施設を訪ねたことは何度かあるが、夜勤中ずっと同行するのは初めて。実際に目の当たりにした勤務の負担感は、想像を超えていた。

 訪問したのは、東京都内の特別養護老人ホーム。定員は100人程度で、入所者と職員たちのやりとりの様子を見ていると、開放的で明るい雰囲気が伝わってきた。ただ、午後4時45分に夜勤が始まると、たちまち人手不足の現実を思い知らされる。

 3階のフロアにはこの日、47人の入所者がいた。

 午後6時。夕食が始まると、夜勤の職員らに加えて、施設長も食堂に現れた。入所者の症状が年々重度になったことで従来の態勢では手が回らなくなり、昨秋から応援に入っているという。

 夕食後も、職員は止まることなくフロア中を動き回る。トイレへの誘導▽歯磨きの手伝い▽着替え▽オムツ交換▽翌日の入浴の支度……。入所者が寝る前にやるべき仕事が山積していた。スーツ姿にスリッパの私は、ついて回るだけでしんどくなる。動きやすい上履きを持参しなかったのを後悔した。

 驚いたのは、職員が入所者一人ひとりの状況を細かく把握していること。「今日レントゲン、撮りました?」「湿布は替えました?」「最近、めまいはどうですか?」。顔を合わせると話しかける。

 私が同行した男性主任(35)は、15年目を迎えた介護福祉士。「ケアのやり方次第で、利用者の対応は全然違う」と話すのを聞き、経験や介護技術の重要性を改めて認識させられた。

■車椅子から転倒

 午後9時54分。就寝に向けた介助が落ち着き、夜勤の職員が介護記録をつけ始めた矢先だった。男性(85)の部屋から呼び出しコールが鳴った。駆けつけると、自室で顔を洗おうとして車椅子から転倒したという。血圧を測り、担当の看護師に連絡した結果、朝まで様子を見ることになった。このときは正直、それほど重大な事態になるとは思いもしなかった。

 日付が変わって午前3時半。少ない人手で忙しい中でも、なんとか回っているように見えた状況が一変した。転倒した男性から再びコール。改めて看護師と相談し、救急搬送することになったのだ。後で頸椎(けいつい)を骨折していたことがわかった。

 主任が病院に付き添って行ったため、残ったのは職員1人だけになった。通常でも夜明け前の午前5時から8時にかけては、最も忙しくなる時間帯だという。1人ずつオムツ交換をするだけでなく、陰部も洗って着替えさせていくためだ。1人では対応できず、拭くだけの簡単なやり方に変更していた。

 職員は黙々と介護を続けるが、その間もどこかの部屋からのコールが鳴り続ける。「下のフロアの夜勤から、応援は頼めないのですか」と聞いてみた。しかし、返事は「下は下でやることがあるので」。ギリギリの人数で介護にあたる現場の「厳しさ」と、何かが起きたときの「もろさ」を痛感した。

■やりがい感じて働けるように

 なぜ、もっと夜勤で働く職員を手厚くできないのか。施設長は「国の人員配置基準に問題がある」と訴える。

 国が想定する「必要な人数」は入所者3人に対して職員1人だが、これでシフトを組むと現場が人手不足に陥る。しかし、介護事業者に支払われる介護報酬はこの人数を前提にしており、職員数を増やすと人件費で経営がなりたたなくなる。この特養は赤字続きで、グループの他の事業所の収益で不足分を補っているという。

 私は昨年5月まで、通算4年以上にわたり厚生労働省の担当記者として取材をしてきた。介護現場の人材不足を解消するには介護職員の処遇を改善することが喫緊の課題とされ、私自身もそこばかりに着目していた。

 ところが、職員の賃金アップだけで問題が解決するかのような風潮に対し、主任は「違和感がある」という。「介護職員は、高い給料を望んで仕事をしているというより、やりがいを感じて働きたい人の方が多いと思う。それができるようにしてほしい」。夜勤に同行してみて、その訴えが重く響いた。

 この特養では月に3~5回ほど、夜勤があたるという。主任は午前9時45分に勤務が明けても仕事を続けていた。

 17時間に及ぶ夜勤の同行取材を終えた私は、想像以上に疲れ切っていた。その後、生活のリズムを取り戻すのに苦労した。(中村靖三郎・38歳)