[PR]

 これまで「子どもと貧困」の現状について伝えてきました。特に母子家庭が深刻な状態で、離婚した父親から養育費が払われていないことが多く、その取り決めや取り立てが親任せになっている現状があります。他国の状況を見ながら、日本に何が必要か考えます。

 各国の養育費政策に詳しい東北大の下夷(しもえびす)美幸教授に聞きました。

     ◇

 母子世帯の増加にともなう養育費の確保は、先進国共通の課題です。多くの国には司法による解決のほか、行政による制度があります。タイプは二つ。別れた親からの徴収を強化する国と、立て替え払いをする国です。

 徴収の典型は米国です。1960年代半ば以降、公的扶助を受給する母子世帯が増加し、財政負担が問題となったことから、父親からの養育費に関心が高まりました。75年、連邦政府に養育費庁、各州に養育費事務所が設置されました。すべての州で、非同居親の捜索、養育費の給与天引きや税還付金からの相殺などが公的な制度として行われており、応じなければ制裁もあります。

 かなり強力な制度ですが、それでも徴収されるべき金額のうち、実際に徴収できているのは6割ほどです。

 低学歴や技能を持たない父親の不払いが目立つようになり、養育費政策の一環で、父親向けの就労支援も始まりました。親子の交流がある方が支払いはよい傾向にあり、面会交流の支援も進められています。公的介入によって、「親としての責任」を果たさせる点が特徴です。

 立て替え払いの代表的な国はスウェーデンです。こちらは「子どもの権利」の保障というとらえ方です。養育費が払われない場合、社会保険事務所に申請すれば、立て替え払いとして手当が支給されます。子どもが18歳まで、学生であれば20歳まで延長されます。

 同事務所は養育費を支払うべき親から、その所得と子どもの人数に応じた額を徴収します。支払い能力が十分でなければ減額や免除があります。応じない場合は税や社会保険料などの未納金を徴収する国の機関が強制執行し、ほぼ100%徴収しています。支払えない親は国が肩代わりし、支払い能力がある親の逃げ得は許さない、という態度です。

 主要先進国はどこも行政が養育費に関与しています。子どもの生活費に関わる重大な問題だからです。

 日本では、養育費は家族内の問題という認識が強く、行政は直接関わってきませんでした。厚生労働省による全国母子世帯等調査では、83年から養育費が調査項目に入り、この時「現在も受け取っている」という人は11・3%。その後、最も受け取っている割合が高かったのは98年の20・8%です。約30年前から把握され、公表されていた問題ですが、具体的な制度の進展はありませんでした。ようやく2000年代に入り、福祉政策に「養育費の確保」が入ったものの、行政の関わりは家庭裁判所の利用手続きを助言し、裁判所での解決を後押しする程度にとどまっています。つまり、養育費は自己責任で確保せよ、ということです。

 当事者任せは、泣き寝入りや子どもの不利、親子の断絶につながっています。養育費争いをしなくてすむよう、子どもの権利の観点から、合理的に必ず確保できる仕組みをつくるべきです。養育費だけで母子家庭の貧困はなくなりませんが、親も責任を果たし、国も十分な手当を保障して、公私で子どもの生活を守る体制を整える必要があります。(聞き手・中塚久美子)

■体験に基づく提案や意見

 フォーラム面に届いた90近いメールの中に、行政の幹部、養育費の取り決めに携わる関係者、海外での離婚経験者からの、体験に基づく提案や意見がありました。

●名古屋市副市長・岩城正光さん(61) 約30年弁護士をしています。養育費を取り決めない人が多すぎます。養育費について書かれた離婚調停書や公正証書がなければ離婚届を受理しないことにし、取り決めを離婚の条件にすべきです。単独親権も問題。一方を親権者にするため、もう一方に養育の義務がないかのような錯覚を与え、養育費の不払いにつながっている。変えたほうがいいと思います。親権は「権利」ではなく「義務」ととらえるべきです。

 どちらも法改正が必要で時間がかかるでしょう。ただ自治体にも支援できる方法はあると思います。支払いがなくて生活に困窮している場合やDVで取り立てようがない場合は立て替え、債権譲渡を受けて取り立てる仕組みならできると思います。

 一方で、面会交流も大事です。私は5歳の時に両親が離婚しました。父親に引き取られ、母親に再会したのは27歳。父親とは違う太った体形にコンプレックスを持っていましたが、母親を見て、「自分のルーツはここにあったんだ」と気が楽になり、自分を受け入れられました。

 名古屋市の調査では、養育費を受け取っている母子家庭の7割弱で面会交流が続いていた。養育費の方が優先順位は高いですが、できれば面会交流と一体で考えるべきです。離婚の時は別れることに精いっぱいでしょうが、子どもに関することは冷静に考えてほしいですね。

●東日本の50代女性 養育費の取り決めに関する職務に携わっており、いくつか提案したいことがあります。

 簡単にできるのは役所の窓口での取り組みです。離婚届にある養育費、面会交流のチェック欄の「取り決めた」に記入がなければ、職員が「家庭裁判所で取り決めができます」と勧めます。家裁での調停は何度話し合っても、子ども1人なら2千円以下です。額が決まる流れも説明する資料も配ります。

 次に取り組んでほしいのは「離婚学級」の実施。韓国では離婚前に「熟慮期間」を設け、養育費や面会などを取り決めた協議書の提出を義務化しました。離婚後も子どもに愛情と責任を持ち続けるような親の意識改革が日本でも必要です。子どもへの配慮や養育費、面会交流などに関するDVDを作り、役所で見られるようにする。離婚届の提出には、視聴した証明書の添付を求めてはどうでしょう。

 将来的には、未成年の子どもがいる夫婦は調停か裁判でしか離婚できないようにし、養育費の取り決めを義務化してほしい。養育費は裁判所の口座に入金させて子どもの口座に振り替える。入金がない場合は裁判所が立て替え、マイナンバーなどを利用して徴収すればよいのでは。

 子どもには養育費を得て暮らす権利、別居親との面会について意思を尊重してもらう権利があります。子ども以外が断るのは権利の侵害。権利を保障する社会を作らない我々大人も、子どもの権利を侵害していると言えるのではないでしょうか。

●米アリゾナ州に住む自営業の男性(59) 留学で日本に来ていた米国人の女性と知り合い、1980年に結婚。米国に移住して木工関係の仕事につきましたが、気づかぬうちに夫婦の溝は広がっていました。

 私たちには娘がいて、当時14歳でした。養育費を決めた法的書類を含め、離婚申請を裁判所に出し、認められれば離婚となります。争う意思はなかったので、ミディエーターという法的仲介人に書類作成を依頼。2001年に離婚しました。

 アリゾナ州では、子どもの高校卒業まで養育費を払う責任が課され、夫婦の所得により養育費が割り当てられます。不払いになると裁判所に通告されて記録され、例えば交通違反などの取り調べで発覚すると、逮捕されることもあります。離婚申請後45日以内に、子どもに与えるストレスを学ぶ授業を受けた修了証を提出しないと、法的手続きは進められません。

 娘は1週間ごとに私と元妻の家を行ったり来たりして過ごしました。でも、3年後からは元妻のもとで暮らすことになりました。娘の負担を考えたからです。誕生日やクリスマスといった「家族の時間」は、どちらで過ごすか話し合いました。

 アカデミックグラントという奨学金を利用し、娘はしっかり勉強して基準をクリアし、州立大学に無償で通いました。返済も要りません。

 州によって細部は違いますが、親が法的責任を果たしているか確認されるのが米国の特徴だと思います。

 自分の娘を、私がサポートしないで誰がするのか、という思いで養育費を払い続けました。子どもに対する親の責任はアメリカも日本も同じ。その責任をとらない親や責任をとらせない国は残念でなりません。

■韓国では徴収支援する機関も

 日本と同じように、母子家庭の困窮と孤立が深刻な韓国では昨年3月、女性家族省のもとに養育費履行管理院が設けられました。

 2012年の調査によると、ひとり親家庭の83%が元配偶者から養育費を受け取っていませんでした。育児と仕事を抱え、養育費確保のための法的手続きには時間も知識も不足しがち。日韓の養育費問題に詳しいソウル家庭法院(家裁)の宋賢鍾(ソンヒョンジョン)調査官(46)は「養育費の相談は多く、有識者や当事者団体を中心にシンポジウムが開かれ、社会の関心も高かった。中心的な役割を担うところが必要になった」と言います。

 履行管理院の役割は相談と徴収です。申請を受けて相手の住所、財産や所得を調査、協議成立から取り立てまで支援します。「養育費は父母の最低限の義務です」と書かれた広告が地下鉄の車両に掲げられています。この1年弱で3万件以上の相談があり、履行管理院の支援で658件、約30億ウォン(2億7千万円)の養育費が支払われました。

 一方、当事者団体の「韓国ひとり親連合」代表、チョン・ヨンスンさんは「経済的理由が離婚の大きな要因。相手が支払えない場合もあり、国の一時支援も対象が限定的。困窮家庭の場合、国が責任を果たす前提を優先すべきだ」といいます。

■離婚後の親権についても考えます

 母子家庭をめぐる日本の現状を考えると、海外のように養育費の取り決め・支払いに公的機関を関与させる仕組みを導入すべきだと思いました。一方で「子どもに会わせてもらえないのに養育費を払えと言われても従うわけがない」といった声にもうなずける部分があります。養育費と面会交流を受ける「子どもの権利」を守るために、実効性のある制度の新設が必要だと感じています。寄せられた投稿には、「共同親権の海外とは環境が違う」と日本の単独親権を問題視する意見が複数ありました。そこで今度は離婚後の親権について考えます。(丑田滋)

     ◇

 ◆中塚と丑田、河合真美江が担当しました。

     ◇

 「子どもと貧困」についてのご意見はasahi_forum@asahi.comメールするか、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞オピニオン編集部「子どもと貧困」係へ。

こんなニュースも