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 川崎市の有料老人ホームで入所者の男女3人が転落死した事件で、2件目となる女性(当時86)を殺害した疑いで再逮捕された元職員の今井隼人容疑者(23)は、神奈川県警の調べに、分刻みで職員の作業を定めた「ライン」と呼ばれる業務表に言及し、介護の仕事にストレスを感じていたと説明しているという。「Sアミーユ川崎幸町」の系列施設で働いた経験がある人たちも、ラインの問題を指摘する。

 「一見、極めて合理的な仕組みだが、介護の相手は人。決めたプラン通りにはいかない」。東京都内の系列老人ホームで働いた経験のある男性は語る。

 親会社の「メッセージ」(岡山市)によると、ラインが作られたのは10年以上前。「ケアプランを機械的に組むことができるように」と開発した。現在は系列の約300施設で活用。トイレや風呂に必要な時間を入所者の要介護度に応じてパソコンで自動的に算出し、介護者の1日のスケジュールを決めている。

 ただ、都内にある別の系列老人ホームで働く女性は「職員全員がラインで動いているから、ライン以外の仕事が全くできない」と明かす。これまで勤務した別の施設では似た仕組みはなく、職員が分担し合っていた。「横とのつながりが一切ないのがラインの特徴。誰も助けてくれないので、終わらなければ休み時間も削られていく」

 入所者の要望でカラオケや映画鑑賞といったレクリエーションを採り入れようとしたこともあったが、他の職員から「ラインに入っていないのでそんな時間はない」と断られたという。

 こうした指摘に対し、メッセージの広報担当者は「過酷な現場があれば、そうでない場所もある。ラインそのものに問題があるのではなく、入居する人数や要介護度によって、負担は変わってくる」と話す。

 同社では昨年9月以降、転落死や暴行などの問題発覚を受け、大規模な施設で勤務態勢を見直した。午後3時~午前10時までの「夜勤」の人数や、手当が多く支給される午後11時~午前5時の人数を増やしたという。

 一方で、業界全体の人手不足は続く。「いつ辞めてもおかしくないのがこの業界。急な都合で退職者が出れば、新たに採用しても1人前の介護士として現場に出るまでに、また時間がかかる」と担当者は言う。(興野優平、古田寛也)