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 今回の高校教科書の検定では、政府の考えと異なる表現に修正を求める検定意見が目立った。新設ページの構成が当初と大きく変わったケースもある。文部科学省は正確さなどを重視したと説明するが、執筆者らからは「従来より指摘が細かい検定だった」との声が出ている。

 実教出版は「高校日本史A」に、「南京大虐殺」(南京事件)の見開きのコラムを新設していた。しかし、「扱いが不適切」との検定意見が付き、内容を大幅に変えることになった。

 元のコラムでは南京で中国側と商取引していたドイツ人、中国側への謝罪をつづった日本軍関係者、村山富市元首相らの様々な見方や考えを紹介していた。「被害者の人数は諸説ある」との外務省ホームページの内容も盛り込み、連合国側の視点として犠牲者数を「20万以上」と触れた東京裁判の判決も盛り込んだ。

 だが、文科省の教科書調査官は昨年12月、実教側に全体の見直しを求める検定意見を伝えた。「20万人以上は学問的通説ではないなど問題があった。多くの人を殺害したとの一面的な資料が選ばれていた」と文科省教科書課は説明する。

 これに対し、執筆者の一人は「多様な立場の証言を載せたが、文科省から求められたのは犠牲者数の多様な説だった」と話す。

 執筆者の記録などによると、調査官とのやりとりは以後5回あった。実教出版はまず1月半ば、犠牲者数を十数万人とする説や7万人とする説があるとの記述を加え、軍関係者の文から謝罪の表現を削った。

 2月半ばには東京裁判判決を外し、日中両政府の合意で進めた歴史共同研究の報告書に差し替えた。犠牲者数に諸説あることを引き、日本側代表の文を紹介するなど修正を重ねた。それでも了承されなかった。

 同月17日に提出し、合格した案は、殺害の理由や犠牲者数の見解の違いについて11の視点から考える構成にするもの。ある執筆者は「締め切り2日前、調査官が『これ以上やりとりしても難しい。ここは相談だが』と示してきた案。時間がなく、のまざるを得なかった」と振り返る。

 コラムに載る資料は最終的に、外務省のホームページと村山談話、参考図書のリストだけになった。

 文科省教科書課は「途中のやりとりの内容は言えない。仮に調査官が構成などを提案したとしても、実際に採用するかは会社側の判断だ」。

 執筆者の一人は話す。「調査官の提案をその都度反映させたが、次々にダメ出しをされた。これまで数度、検定を受けているが、ここまで何度もやりとりするのは初めての経験。文科省が検定の透明化をめざすなら、途中経過を公表してほしい」(編集委員・氏岡真弓

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