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 テニス界のスター選手、マリア・シャラポワ(28)=ロシア=がドーピング検査で陽性になったことを明らかにして以降、にわかに話題に上っているのが検出薬物「メルドニウム」だ。聞き慣れないこの薬物は、どこで製造され、どんな効果があり、どんなふうに流通しているのか。その素性を追った。

 メルドニウム(市販名ミルドロネート)は決して新しい薬ではない。バルト三国のひとつ、ラトビアで1970年代半ばに開発され、もともとは家畜の成長を早める薬だった。2000年を過ぎて、人に投与すると心臓の働きを高め、虚血症などの心疾患に効果があることが分かってきた。

 一方で、1980年代にアフガニスタンに侵攻した旧ソ連兵がこの薬を持たされたとロイター通信は報じ、薬の開発者のイバルス・カルビンス氏も7年前、「(標高が高く酸素が薄い)アフガニスタンで兵士のスタミナ増強に使われた」と地元紙に語っている。血流を増し、持久力向上作用があることを、軍は早くから知っていたと推測できる。

 独ケルンの分析機関が昨年発表した論文では、持久力の向上以外にも、様々な効果が期待できるとしている。試合や練習後の疲労回復▽ストレス耐性の強化▽中枢神経系の機能の活性化▽気分を高揚させる▽記憶力を高める――。

 まるで万能薬だが、バルト三国やロシアなど主に旧ソ連圏でしか販売されていない。米国でも西欧でも、そして日本でも未承認だ。製造・販売するラトビア・グリンデックス社の広報担当は「米食品医薬品局(FDA)にも欧州医薬品庁(EMA)にも認可を申請したことはない」とロイター通信の取材に答えている。

 ただ、インターネットならほぼ世界中で手に入る。あるサイトでは、0・5グラムのカプセル60個入りで50ドル(約5600円)。シャラポワの会見後、関心を集め、価格が2倍近くに跳ね上がったサイトもある。「発送が遅れる」「在庫なし」などの注意書きが目につくようになった。

 シャラポワ以外にも、この薬が選手の間で広く使われているのは間違いない。日本のドーピング検査関係者は「2年前のソチ五輪以降、旧ソ連圏の選手から複数の使用例が報告されたので、監視リストに入れたのではないか」と推測する。

 昨年1月1日に監視リストに加わり、使用状況の調査が始まった。英国のスポーツ医学雑誌が今月公表した報告によると、昨年6月にアゼルバイジャンで第1回が開かれた欧州競技大会で欧州五輪委員会が調べたところ、約6千人の参加選手のうち最大490人がメルドニウムを使っていた可能性があるという。

 研究の結論は「明らかに疲労回復促進や競技力向上を目的に使われており、スポーツ精神に反する」。同誌は「研究がこの薬を監視リストから禁止薬物リストに移す決断に貢献した」と述べている。世界反ドーピング機関(WADA)がメルドニウムを今年初めから禁止薬物リストに入れると公表したのは昨年9月だ。

 国際テニス連盟(ITF)は今後、シャラポワへの聴聞などを経て処分内容を決める。資格停止期間は最大で4年だが、もし1年や2年に軽減する決定をITFが出せば、WADAが「短すぎる」として、スポーツ仲裁裁判所に訴える可能性もある。

■不自然なシャラポワの説明

 シャラポワは子供の頃から米国に移り住んでいる。米国で未承認の薬物を「主治医に処方された」という説明には不自然さが残る。国立スポーツ科学センター長の川原貴医師は「医師はどうやってその薬を手に入れたのか。薬局を通すルートではできないはずだ」と疑問を呈する。しかも、シャラポワは10年間使ったと告白している。

 米在住の医師の話では、インターネットで入手可能なので患者から依頼されれば注文する場合もあり得るが、患者が「この薬を」と指定しないのに、医師が自ら未承認薬を処方することは考えにくいという。FDAの承認薬がほかにあるからだ。

 もし、シャラポワが禁止薬物になったと知っていれば「治療使用特例(TUE)」を申請することもできた。禁止薬物でも、治療に不可欠と判断されれば許可される場合がある。しかし、川原医師によれば、使用しなければ重大な健康被害があるとか、他に治療法がないとか、いろんな要件があるといい、この場合は許可される可能性は低い。(酒瀬川亮介)

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