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 米アップルは3月21日(現地時間)、新製品発表会を開催しました(写真1)。今回の発表会の中心となっていたのは、「iPhone」と「iPad」という同社の主軸商品です。しかし、今までの「完全新モデル発表会」とは、少し趣が異なっています。現在のアップルの「顔」とも言えるiPhoneとiPadの新製品からは、同社の今後の方針を見定めるための戦略がはっきり見えてきます。

 今回アップルがどんな発想で新製品に臨んだのか、分析してみましょう。(ライター・西田宗千佳)

■プライバシー・エコ・健康、「スマホの持つ社会的責任」とは

 今回、アップルは発表会の前半を「社会的な責任への対処」の説明に充てた、と感じています。

 アップルのティム・クック最高経営責任者(CEO)は、まず「プライバシー」の問題から会を始めました。現在アップルは、米司法省との間で「iPhoneのロックを解除するソフトウェアの提供」について衝突しています。司法省は社会の安全のために協力を求めていますが、アップルとしては、OSのセキュリティー部分にアップル自らが穴を開ける可能性がある改変には応じない構えを崩していません。その点については、他のIT企業の多くも賛同しています。

 「iPhoneはきわめてパーソナルなツールになっている。我々には顧客のデータとプライバシーを守る責務がある」と、クックCEOは語ります(写真2)。発表会に参加したプレス関係者にもこの意見に賛同する人が多いせいか、会場からは大きな拍手が起きました。

 次に説明したのは環境への対策です。アップルのような企業は、製造でも多大な資源とエネルギーを使いますし、クラウドを運営するサーバーも大量の電力を消費します。その両面でアップルは対策を進めている、と言います。

 まず、再生可能エネルギーの活用です。アップル全体では93%が、アメリカや中国を含む23カ国の事業所・操業施設では100%が再生可能エネルギーで運営されるようになりました。そして、パッケージの紙も再生紙利用を進め、99%が再生紙で作られるようになっています。

 そして、回収したiPhoneの分解とリサイクルのために、アップルはオリジナルのロボットを作ってしまいました(写真3)。「Liam」と名付けられたこのロボットは、アップルのエンジニアの手で開発されたもので、細かなビスやフレームまで正確かつ素早く分解します。

 iPhoneは年々、製造と修理が容易な構造に変化してきているのですが、それでも複雑であることに変わりありません。ロボットを使い、正確な手順で分解するプロセスを作ることで、資源の無駄を抑制しようとしているのです。同時にアップルは、これまでも進めていた「下取り」の仕組みを拡大します。日本でも、購入時に古いiPhoneやマックの下取りをしてくれます。アップルは「資源を消費して新しい製品を作り、それを売る」ことで利益を得る企業です。消費者が新しい製品を買いやすくする一方、下取り品のうち使えないものは速やかに再資源化することで、全体のサイクルを加速した上で、より持続的なものにしようと考えているわけです。

 もうひとつの試みが、iPhone向けアプリで医学研究への貢献を進める「ResearchKit」についてです。iPhoneのタッチパネルやモーションセンサー、Apple Watchの心拍計を使い、身体のデータをとることで、病気の予兆の分析に役立てよう、という試みですが、日本でも、慶応義塾大学や順天堂大学で実践されており、世界中で何千万件というデータが集まりつつあります。そこからさらに広げ、病気中や手術後のケアにデータを生かす「CareKit」も4月に登場します。

 これらは、アップルとしてのビジネスを円滑にするものでありつつも、巨大なビジネスを動かす立場としての責任に基づくもの、と言えます。これらのことがあるから製品を買う、という人は多くないかもしれませんが、「情けは人のためならず」的な意味で前向きに取り組むことが、結局はアップルのビジネスを健全に進めるために欠かせないもの、ということになるでしょう。

■4インチiPhone復活の背景

 現在、アップルがiOSをベースにして展開している機器は「Apple Watch」「Apple TV」「iPhone」「iPad」の4ジャンルです。今回の発表会では、そのどれにも新しい展開がありました。

 といっても、Apple WatchとApple TVについては小幅な変化と言えます。Apple Watchは、最低価格を299ドル(日本では3万6800円)に下げ、裾野を広げる作戦に切り替えてきました。短期間で機能アップするより、利用者を増やす方が優先、との判断なのでしょう。

 シーズンごとに追加される新バンドとしてはナイロン織り地のものが登場しましたが、これは日本製で、織機もアップルと協力メーカーが共に作って製造しているそうです。Apple TVは、Siriの対応拡大やフォルダーの導入など、OS面の若干の機能アップが発表されました。Apple WatchもApple TVも、OSのアップデートは3月22日から開始されています。

 日本のユーザーにとって一番気になるのは、iPhoneの新モデル「iPhone SE」でしょう(写真4)。iPhoneおよびiPadのプロダクトマーケティングを担当する副社長のグレッグ・ジョズウィアック氏は、「現在アップルには三つのサイズのiPhoneがある」と切り出しました。最新のiPhone 6sシリーズは液晶サイズが4.7インチと5.5インチの2ラインアップです。さらにその下は、2013年に発売された「iPhone 5s」がそのまま販売されていた形です。

 しかしジョズウィアック氏は「15年には3000万台もの4インチiPhoneが売れた。しかも、iPhoneを初めて選んだ人も、その中には多く含まれる」とします。iPhone 6を含め、ここ数年のスマートフォンは5インチクラスのディスプレーを使うものが多くなっていました。「片手で持つには大きすぎる」との不満を漏らす人も、かなりの数がいたのは事実です。販売数の点からそうした点を認めた上で、アップルは「4インチのiPhone」を復活させたわけです。

 iPhone SEは、ローズ…

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