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■「げんげの花」:1

 「私の母は認知症で……」。こう書き出すつもりが、様相が変わってしまった。母の介護をしていた父がつい先日、亡くなってしまったのだ。

 85歳の母は8年前、アルツハイマー型の認知症と診断された。今は介護施設で暮らす。じょじょに要介護度も上がり、現在は「4」。家族の顔や姿はかろうじて認識できる、といった感じだろうか。

 父も同じ85歳。老後は町内会や老人会など地域活動に精を出していたが、心臓が悪かったり、静脈瘤(じょうみゃくりゅう)があったりと年相応に体にもガタが来ていた。そんな父にとって、施設にいる母親に会いに行くのは、数少ない楽しみのひとつだった。

 父が胃がんの手術をしたのは、3月上旬のこと。胃と脾臓(ひぞう)を全摘したが、もともと栄養状態も悪く転移もあり、快復はいまひとつだった。「今後の治療方針を説明をしたい」という主治医に呼ばれて、四つ離れた兄と入院先を訪れると、父の容体が急変していた。血圧が異常な高値を示していて、上が210もある。ちょっと前まで血圧の低い状態が続いていたので、突然の事態に驚いた。脳出血を併発している可能性が高いという。医師にとっても予想外の事態だったらしい。病状の説明を受けた後、「あとは時間の問題ですか?」と尋ねると、静かに「そうですね」と答えた。

 あすまで持たないかもれない。いまのうちに、母と会わせたほうがいい――。時計を見ると、もう夜の9時ちかくだった。私の妻が介護施設に連絡を取ると、外出を許可してくれた。親身な計らいに今でも感謝している。ただ、母は車いす生活なのでマイカーは使えない。介護タクシーを呼び、兄と妻が迎えに行った。

 前日まで「お父さん」という家…

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