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 高速道路の一部が近い将来、最高時速120キロで走れるようになる。速度引き上げの対象は、道幅が広く、事故が少ないといった条件を満たす路線で、新年度以降、まず岩手県と静岡県の高速道路で110キロで試行する。警察庁が24日、発表した。「危険が高まらないか」「利便性が高まる」。受け止めは様々だ。

 警察庁によると、1963年に国内で初めて名神高速道路が開通した時から、高速道路の規制速度は最高時速100キロだが「なぜ100キロかは資料が残っておらずわからない」という。規制速度の引き上げは初めてだ。

 なぜ見直すのか。高速道路は各地で整備され、新東名のように、車道や路肩が広く、カーブや勾配も少なくて、120キロでも安全に走れる造りの道路ができた。警察庁の説明では「そこでは大半の車が規制速度を超えている」。国家公安委員長が有識者を集めた懇談会も2013年に、見直しを検討するよう求めた。

 さらに、警察庁が12~14年に、120キロで走れる造りの道路7カ所と、100キロを想定した造りの道路2カ所で調べると、実際に車が100~120キロで走っている区間では、死傷事故の発生率は、120キロで走れる造りの道路の方が4割低かった。また、120キロで走れる造りの道路では、100~120キロと100キロ未満で走った際の死傷事故の発生率に大差がなかったという。

 警察庁は規制速度を引き上げる条件として、120キロで走れる造りの道路で、事故が少ないことなどを挙げている。試行場所は、岩手県の東北道の花巻南IC―盛岡南IC間と、静岡県の新東名の御殿場JCT―浜松いなさJCT間のそれぞれ一部区間。開始時期や区間は、岩手、静岡各県の公安委員会が決める。

■「重大事故につながる」「物流の武器に」

 交通事故で高校2年の長女(当時17)を亡くした北海道交通事故被害者の会(札幌市)代表の前田敏章さん(66)は「速度が速いと危険回避に手間取り、重大な事故につながる。違反が常態化しているといって規制速度を上げるのはおかしいし、事故率が高くないから安全だとはならない。事故による犠牲者は一人も出してはいけない」と話す。

 市民団体「クルマ社会を問い直す会」の役員で、2003年に長女(当時6)を事故で亡くした東京都品川区の佐藤清志さん(51)も「現行の最高速度を守るよう周知、訴えるのが筋だ」と話した。

 速度制限の研究をしている千葉商科大学の小栗幸夫教授(都市交通計画)は「高齢ドライバーの増加で低速で走る車が増えることを考慮していない」と指摘。「高速で走る車と低速の車が今より混在し、速度差も大きくなる。追い越しで加速や減速をする機会が増え、接触の危険性が高まるのでは」と推測する。

 一方、仕事で高速道路を定期的に使っているという神奈川県秦野市の男性会社員(41)は「早く着ける方がありがたいし、先方の急な時間変更にも対応できる」と歓迎。岐阜県各務原市の男性会社員(34)も「急ぎの場合は少々、スピードが出てしまうことはある。120キロは妥当な速度ではないか」と話した。

 交通事故訴訟に詳しい高山俊吉弁護士(東京弁護士会)は「大半の人が100~120キロで走っているのなら、人間の安全感覚から生まれた適正速度と言える。他の高速道路も状況に応じて規制速度を決めるべきだ」と評価。危険性が増すとの指摘については「高速道路は高速で走るから社会的な有効性がある。物流の最大の武器にもなる。道路に適した速度で、安全に走行することが大切だ」と話した。(八木拓郎、池田良)

■警察庁「日本だけが特別ではない」

 警察庁は、欧州諸国で高速道路での死亡事故が少ない5カ国について、高速道路の規制速度を調べた。オランダやデンマーク、スウェーデンは従来、時速110~120キロと日本を上回っていたが、2004年以降さらに120~130キロに引き上げた。イギリスは113キロという規制速度を設けた1973年から一度も変えておらず、ドイツには規制速度が原則なかった。

 警察庁の担当者は「他国とは道路状況が異なり、文化も違うが、日本だけが特別なことをしようとしているわけではない」と話す。