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 川崎市の出版社が被差別部落の所在地や世帯数を記した戦前の調査報告書「全国部落調査」を書籍として復刻出版する計画に対し、横浜地裁の有賀直樹裁判官は28日、出版や販売を禁止する仮処分決定を出した。部落解放同盟と組坂繁之委員長ら5人の「出版は部落差別を助長する悪質な行為」とする申し立てを「相当」と認めた。出版社側は「あり得ない異常な決定」と反発。題名や名目を変えて出版する方針という。

 申し立てなどによると、出版社側は2月、「全国部落調査」を復刻した書籍を4月1日に発売するとネット上で告知した。解放同盟側は、被差別部落名を記して1970年代に販売され、身元調査に使われた「部落地名総鑑」と同様、今回の書籍も「差別図書だ」として出版や販売の中止を要請。通販サイトや書店は書籍の取り扱いを中止したが、出版社側は要請を拒んだため、解放同盟側が22日、横浜地裁に出版や販売差し止めの仮処分を申し立てていた。部落地名総鑑は法務省が人権侵犯事件として調査、回収している。

 決定に対し、解放同盟側の弁護士は「出版により結婚や就職での差別に利用され、被差別部落出身者に大きな不利益が及ぶことを理解して差し止めを認めた裁判所に感謝したい」と述べた。一方、出版社経営者は「出版は研究目的であり、禁止は学問の自由や表現の自由の否定だ。仮処分が出ても、題名と名目を変えて出版する」と話した。

 この経営者は2010年には同和地区の地名開示などを滋賀県に求める訴訟を起こした。これに対しては14年12月、「公開で差別を助長し、同和対策事業や人権啓発事業に支障を及ぼす恐れがある」として、非公開とした県の判断を妥当とする判決が最高裁で確定している。(編集委員・北野隆一

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 〈「部落地名総鑑」事件〉 全国の被差別部落の地名、所在地、主な職業などを記した図書が販売されたことが1975年に発覚。法務省が人権侵犯事件として調査した結果、8種類が作られ、延べ223社に1部5千~4万5千円で売られていたと判明。89年までに計663冊を回収した。地名総鑑の一つを作ったという興信所経営者が「結婚や就職の際に部落出身者かどうかの身元調査依頼が多かった」と明かしたことなどから、大阪府や福岡県などで部落差別につながる身元調査を規制する条例が作られた。