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 福岡市であった全日本選抜体重別選手権が閉会した3日、リオデジャネイロ五輪の代表を選考する強化委員会を報道陣に公開した中で行った。この我々の判断が、正しいとも偉いとも思わない。だが今回、痛感したことがある。透明性を高めることで、競技団体は救われる。そのことをまず、声を大にして伝えたい。

 日本代表に選んだ12人は総じて動きが硬く、選抜で優勝した第1シードは4人。普段通りの力を発揮したのは、全日本選手権(29日、東京・日本武道館)後に代表を決める男子100キロ超級で、初優勝した原沢久喜(日本中央競馬会)だけだった。

 各階級の第一人者のふがいない内容に、私は「選考はもめるだろうな」と覚悟した。本音を言えば「報道陣に公開するなんて言わなきゃよかった」と少し後悔もした。会議の前は強い重圧を感じたし、終わった後は現役時代の試合後のような疲労感に襲われた。

 だが会議から一晩たって目覚めた時、ふと思った。「もし同じ議論を密室でしていたら、メディアは『疑惑の選考』と書いていたのではないか」と。そうなれば、この3年で柔道界が信頼回復に積み上げてきた努力は全て吹っ飛んでしまう。有力選手の結果が伴わなかったからこそ、公開の重みは増した。私は思わず神様に手を合わせた。

 今回、議論のたたき台となる代表選手案を作ったコーチ陣は、客観性を高めるために細かいデータを提出した。かつてのような「外国人選手に強い」という抽象的な説明ではなく、2013年からの国際大会の実績、五輪でライバルになりそうな有力選手との対戦成績といった数字を示した。初めて会議を公開した昨年より、綿密に、緊張感をもって準備し、真摯(しんし)に説明責任を果たそうとしてくれたと思う。

 個々の選考についてはコーチ陣に一任しており、私がとやかく言うつもりはない。ただ意見の多かった2階級について一言ずつ。男子60キロ級は選抜で優勝した志々目徹(了徳寺学園職)ではなく、高藤直寿(パーク24)を選んだ。海外での実績の差が明暗を分けた。結果から「事前に高藤に決まっていたのではないか」という意見もあったが、個人的にはギリギリまで志々目にも代表の目はあったと感じている。結果は残したが、コーチ陣の評価を覆すまでの内容を残せなかったということではないか。

 男子66キロ級の海老沼匡(パーク24)は準決勝で一本負けし、会議でも「あの負け方で大丈夫か」と疑問の声が飛んだ。2月のグランドスラム・パリで2人の世界王者を投げて優勝した海老沼が、わずかな歯車のずれでああも変わってしまう。対人競技の柔道において、目の前の試合だけで実力を判断することの難しさを改めて思い知らされた。

 この2階級に限らず、全ての選考において重視されたのは海外での実績だ。我々は世界で勝てる選手を育てるために、情熱やお金を注いでいる。今後、選手はより世界を見据えて活動するようになってほしい。

 現状の選考方法の是非は会議でも様々な意見が出た。個人的には、選抜で12人の代表を一斉に決める現行のやり方は適当でないと思う。他の候補者を圧倒する実績があれば12月のグランドスラム東京で決めてもいいし、代表争いがもつれているのであれば4月以降に決定を遅らせてもいい。リオ五輪後には、新たな強化委員長の下で制度設計から議論する必要があるだろう。

 選抜ではうれしい誤算もあった。男子66キロ級優勝の阿部一二三(日体大)、60キロ級準優勝の大島優磨(国士舘大)、100キロ級優勝のウルフ・アロン(東海大)、女子57キロ優勝の芳田司(コマツ)――。2020年という大目標に向け、日本柔道界を背負っていく若手が生きのいい試合をしてくれた。将来の希望が芽生えた大会でもあった。(朝日新聞社嘱託 山下泰裕)

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