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 岡山県北部にある、人口約10万人の津山市。静かな地方都市の農協で、多くの職員が未払いの残業代の支払いを求める訴訟を起こす異例の事態になっている。正職員の3分の2にあたる200人超、求める残業代は約3億円にのぼる。

 訴えたのは、津山市などを管轄する津山農業協同組合(JAつやま)の職員で、追加分も合わせると221人。未払い残業代に加えて、労働基準法違反があったときに裁判所が支払いを命じる付加金も求めており、請求額全体は6億円近い。提訴は岡山地裁津山支部だが、金額が大きいため岡山地裁本庁で審理することになった。

 原告の職場は事務職のほか、農家を指導する営農センター、ガソリンスタンドなどで、いずれも津山農協労働組合の組合員。執行委員長の矢野秀実さん(49)は「4、5年前から農繁期を中心に休みがとれない状態が続いている。残業が月に100時間を超えるケースや休日がゼロの月があり、何とかしなければならないと団体交渉をしてきたが、抜本的な改善がされていない。やむを得ず法的手段に訴えた」と話す。

 原告代理人の則武透弁護士によると、昨春ごろに労組から相談を受け、8月下旬、JA側にタイムカード、賃金台帳の開示を要求したところ、2年分のデータを明らかにした。労組は残業代を計算して支払いを求めたが、応じなかったという。

 訴状などによると、2014年11月には、労働基準監督署がJAに対し、残業代を支払うよう是正勧告を出している。JA側は一部の支払いに応じたが、翌15年3月に代理級職員を「管理監督者」に一方的に変更したという。

 労基法の「管理監督者」には残業代を支払う必要はない。ただ、これまでの裁判や行政通達では①経営者に近い立場で働き方に裁量がある②十分な賃金をもらっている――などの条件が必要で、地位が高い管理職に限られる。原告の約1割が管理監督者扱いになっているが、則武弁護士は「代理級職員には課長代理も含まれ、とても管理監督者とはいえない」と指摘する。

 JA側の主張は労組と対立している。22日、岡山地裁で開かれた第1回の口頭弁論で、JAは未払いの残業代はないとして、訴えの棄却を求めた。

 今後の裁判では、①「管理監督者」の範囲②タイムカードの記録が勤務実態と合っているか③残業命令があったか――などが争点になるとみられる。(松尾俊二、編集委員・沢路毅彦)