【動画】大好きな魚のこと、こだわりの大切さを語るさかなクン=佐藤正人撮影
[PR]

 子どものいいところを伸ばしたいと思う親は多いはず。東京海洋大名誉博士・客員准教授のさかなクンは、幼い頃からの好きなことを究め、豊富な知識と絵で魚の魅力を伝え続けています。母の支えで始まった「お魚ライフ」。さかなクンとお母さんに、それぞれ話を聞きました。(文・大井田ひろみ、写真・佐藤正人)

 小学2年のとき、クラスの男子の落書きに、衝撃を受けた。うねうねした長い足に丸い頭。これは何? 図書室で調べ、タコとわかった。食べたことはあるのに、こんな姿だったとは。本物を見たい。

 ぶつ切りでなく丸ごとのタコを母に買ってもらった。その日から考えるのはタコのことばかり。図鑑や写真集などでタコを探す。夕食は毎日のようにタコをねだる。絵を描くことが好きで、タコを描きたかった。母は嫌な顔ひとつせず、1カ月近く味付けを変えてタコ料理を作ってくれた。

■水族館の閉館までタコ観察

 生きているタコを見たくなり、母に日曜に水族館に連れて行ってもらうようになった。タコの水槽から離れない。タコはタコつぼに隠れて、1日かけても少ししか姿は見えない。「でも目は見えます。黄色くて、表情があってかわいいんですよ」。たまに足が出てきたら「動いた! なんでそれぞれの足が違う動きをするんだろう」と大興奮。母は「タコって面白いんだね。お母さんもタコが気になってきた」と言ってくれた。「タコの魅力に共感してくれ、感動を共有でき、すごくうれしかった」

 閉館までいても、タコが姿を現さずため息をついた日。「残念だったわね。でも、魚はほかにもいるのよ」と、母は下敷きを買ってくれた。色々な魚があった。「こんなお魚もいたんだ、って興味がわきました。お魚ライフの始まりです」

 母と魚屋に行くと、ほしい魚は1匹丸ごと買ってくれた。角度を変えてはウロコの数、ひれの形、色の濃淡など観察し、絵にした。「母が『すごい、紙から飛び出て泳ぎ出しそう』とほめてくれるのがうれしくて、また喜んでくれる絵を描きたくなりました」。その後は自分で料理に。さばき方は魚屋で見て覚えた。

■「あの子はそれでいいんです」

 小学校では、授業中も休み時間も魚の絵を描いていた。授業についていけず、家庭訪問で担任に言われた。「絵は素晴らしいけれど、勉強もするようにしてください」。母は「あの子は魚と絵が好きだからそれでいいんです」。将来本人が困ると言われても、「成績が優秀な子もそうでない子もいていい。みんな一緒ならロボットになっちゃいます」。「絵の先生に習っては」との提案には「先生のクセがついてしまいます。好きなように描いてほしいのです」と答えた。母の口癖は「命がとられるわけじゃないんだから」。失敗しても大丈夫だと安心できた。

 好きなことを見つけた子どもたちには「夢中なことを大切に」と伝えたい。「自分もギョクッと落ち込むこともありますが、お魚の新たな面を知って感動すると、また頑張れます。感動は共有できるんです。『これが好き』という気持ちや感動の表現方法は一人一人違います。自分は絵ですが、それぞれのやり方で表現できたら素晴らしい」

   ◇

■さかなクンのお母さんに聞く 「タイヤの溝まで再現、個性生かそうと」

 ハイハイしている頃から絵を描くことが好きでした。幼い頃、夢中だったトラックを見ると、家ですぐ絵にします。ヘッドライトの形や位置など、頭にインプットされていました。タイヤの溝まで再現するのを見て、この子は違った感性で物事を捉える子だと感じました。だから、個性を生かしてあげたかった。絵を習わせず、好きに描かせたのも、息子にとってこれでいいのかと悩みましたが、結果的に様々なタッチの絵が描けるようになり、ああ良かったと思います。

 息子のおかげで、知識がなかった私も魚に興味を持ち、色々と教えてもらいました。水族館でタコが動くと全身で感動を表す息子と一緒に、私も「すごい」と感激しました。親は迷いながら、この選択があっていてほしい、という気持ちだと思います。初めから決めつけず、子どもが興味があることをよく聞きながら、自分流にやっていけばいいのだと思います。

 車の中でも息子が、自分の名刺一枚一枚にサインをしていることがありました。親としては健康が心配で、疲れているのだから寝たらどうかと言いました。そうしたら「受け取った人には一生残るから、一枚でも雑に描いたらだめ」と言われました。皆さんの笑顔に元気をもらっているのだと思います。

   ◇

■さかなクン

 東京海洋大名誉博士・客員准教授。2010年には、絶滅とされていたクニマスの生息確認に貢献。7月22日に「さかなクンの一魚一会~まいにち夢中な人生!~」(講談社)発売予定。