[PR]

 インターネットがなかった頃、SNSのような役割を果たしていたのが新聞の投書欄でした。朝日新聞で「声」として続く投稿欄ができて、まもなく100年。じつは過去に採用された中には、文豪や政治家、俳優など著名人もたくさんいます。最近では一般の人にまじって紙面掲載された内容が、ネットを巻き込んで盛り上がることも。話題になった投稿を振り返ります。

■渡辺謙さん31歳、病床から投稿

 25年前から、今なお読者に語り継がれている「声」があります。1991年1月17日、米軍を中心とする多国籍軍がイラクを空爆した湾岸戦争。その翌月の2月7日、俳優・渡辺謙さんの投書が紙面に載りました。当時、31歳だった渡辺さんは急性骨髄性白血病で闘病中でした。

 タイトルは「命の大切さを私は訴えたい」。病床からのメッセージは、大きな反響を呼びました。他の読者の投稿にたびたび引用され、今年3月にも「渡辺謙さんの反戦、今も共感」という主婦の投書が大阪本社版に掲載されています。

【渡辺謙さんの投書(抜粋)】

「私は数十人の医療スタッフの力を借りながら自分の命と向かい合っています。湾岸戦争は本格的な地上戦へと移行しそうな状況ですが、家庭に送られて来る膨大な映像や情報を見聞きして“命のやりとり”という真実はやはり薄れがちです」

「百万人もの兵士が命のやりとりをしようとしているのを、外野席で応援する気には、私はどうしてもなれません。なぜ、政府は人殺しはよくないことです、と声を大にして言えないのでしょう」

「日本人として声を大にして全世界に呼びかけるべきです。どんな正義の名目をかかげても、戦争は人殺しです。その当たり前のことを、たった一つの命と向かい合っている者として訴えます」(出典:1991年2月7日、朝日新聞東京本社版「声」)

     ◇

■香山リカさん「生まれて初めての投書」

 最近では、8月に精神科医・香山リカさんの投書が載りました。東京都知事選の出来事にふれ、「選挙で『魂の殺人』は許せない」とヘイトスピーチの問題を訴える内容でした。投稿はネット上でも注目され、様々な議論を呼びました。

 香山さんはツイッターで4万人を超すフォロワーがいますが、なぜ新聞投書欄を意見表明の場に選んだのでしょうか。理由について、香山さんは「ツイッターの読者はどちらかというと若年層が多い。高齢者を含めた幅広い世代と、都知事選の有権者以外の方々にもヘイトスピーチの問題を知ってほしかった」と話します。

 香山さんが新聞に投書したのは、「今回が生まれて初めて」だったそうです。投書欄の今後については、「多様な言論がある中で、言いたいことが言いにくい、萎縮している世の中。賛否の両論併記で変にバランスを取るより、新聞ごとに投書欄のカラーをしっかり打ち出してほしい」と期待します。

【香山リカさんの投書(抜粋)】

「東京都知事選に数多くのヘイトデモを実施してきた排外主義団体の元会長が立候補した。その街頭演説は耳をふさぎたくなる主張の連続だった」

「選挙期間中ならば対策法が定める『本邦外出身者を地域社会から排除することを扇動する不当な差別的言動』が公然とできる現状は看過できない」

「ヘイトスピーチは『魂の殺人』とも言われる。私の元には、それによって心に傷を負った外国人が治療を求めて訪れる。一日も早く対策が講じられ、ヘイトスピーチなき選挙活動が行われるように願う」(出典:2016年8月2日、朝日新聞東京本社版「声」)

     ◇

■赤川次郎さん、橋下政治にもの申す

 4年前にはツイッターを交えた意外なバトルもありました。「三毛猫ホームズ」などで知られる作家・赤川次郎さんが2012年4月、当時の大阪市長だった橋下徹氏に向け、「価値観押しつけるな」と抗議の投書をしたのです。いくつかの政策を挙げて痛烈批判したところ、それを読んだ橋下氏本人もツイッターで猛反論。ネット上でも、やりとりが話題になりました。

【赤川次郎さんの投書(抜粋)】

「(府立高卒業式での「君が代」口元チェックについて)生徒のためのものであるはずの卒業式で、管理職が教師の口元を監視する。何と醜悪な光景だろう! 橋下氏は独裁も必要と言っているそうだが、なるほど『密告の奨励』は独裁政治につきものである」

「府知事時代、橋下氏は初めて文楽を見て、こんなもの二度と見ないと言い放ち、補助金を削減した。曰(いわ)く『落語は補助金なしでやっている』。舞台に座布団一枚あればいい落語と、装置を組み、大勢の熟練の技を必要とする文楽を一緒くたにする非常識。客の数だけを比べるのはベートーヴェンとAKBを同列にするのと同じだ」(出典:2012年4月12日、朝日新聞東京本社版「声」)

【橋下徹氏のツイッター(抜粋)】

「朝日新聞の声で赤川次郎さんからお叱りを受けた。君が代起立斉唱条例について価値観を押し付けるなと。しかし、義務教育の卒業式の場で、全員起立して斉唱する際に、あえて着席することも価値観の押し付けである。人間の意図的な行為は全てが価値観の表れでもある」

「起立を求める価値観の押し付けと、不起立を求める価値観の押し付け。二つの価値観がぶつかったので民主的な手続きにのっとり条例を制定しました。これが大阪府民、大阪市民の価値観です。赤川さんの価値観を大阪府民、市民に押し付けないで下さい」(出典:2012年4月14日、橋下徹氏〈@t_ishin〉のツイッター)

     ◇

■のちの総理大臣・文豪・学者も…

 戦後まもない頃は「大物」が続々と投稿していました。1951年3月には池田勇人大蔵大臣(のちの首相)が「私の方針」と題して、一般読者の声に答えています。

 「蔵相へお願い」と書いた投稿主は、物納財産をめぐる国の対応に不満をもつ無職の男性でした。「財務局から聞くにたえない暴言を浴びた」「涙をのんで会社を辞め、社長に借金して完納した」と窮状を訴えたのです。池田蔵相は、それから5日後の紙面で「お話のような無理な金策まで強いる結果になるようならば非常にお気の毒だったと思います」と同情を交えながら、自らの方針を説明しました。

 ほかにも志賀直哉や谷崎潤一郎ら昭和の文豪や、民俗学者の柳田国男の投書が採用されています。

■「常連」森村誠一さん、ネットで全文公開

 投稿が何度も載った「常連」作家もいます。代表作「人間の証明」「悪魔の飽食」ほか、多数のミステリー小説で知られる森村誠一さんです。採用回数は記録に残るだけで9回。2013年5月に「犠牲払って得た憲法、尊重望む」と書いてから昨年まで、年2~3本ペースで平和と民主主義の危機を訴え続けています。

 昨年9月には、安保法案反対デモについて書いた投書が掲載されました。自身の公式サイトでは制限字数に収まりきらなかった部分まで、「原文」として全文公開しています。

■あなたも採用!?投稿のポイント

 1917年2月に始まった朝日新聞の投書欄。当初は鉄のほうきを意味する「鉄箒(てっそう)」というタイトルでした。後に「声」と名を変えましたが、昔も今も有名人のみならず、子どもから大人まで誰もが投稿できるコーナーです。

 現在、東京と大阪の声編集部には毎月5千通前後もの手紙やファクス、メールが届くそうです。大阪本社版の声編集長・塩谷祐一さんに投稿のポイントを聞きました。これを知れば、あなたも採用に一歩近づくかもしれません。

【声編集長が教える新聞投書のコツ】

(1)ニュースにすばやく反応→投稿者多数なのでスピードも大事。メールやファクスを活用する

(2)筆者ならではの「物語」→独自の体験や意見を織り込む。うれしい・残念などの気持ちも表現して

(3)「反響投稿」もオススメ→他人の投稿に対する自分の意見を書く。共感・反論でもOK

 塩谷さんは「編集者全員がすべての投稿に目を通すので、読んでニヤッとしたりホロッとしたり、あるいはホーッと感心したりする投稿が選ばれやすいでしょう」と話します。字数は550文字以内。ちなみに投稿が掲載されると、3千円の図書カードが進呈されるそうです。(西村悠輔)