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 正規職に就けず、頼れる人もいない――。生活が苦しく将来に不安を抱える「非正規シングル中年女性」は少なくありません。しかし「結婚して養ってもらえばいい」「自己責任」などとみなされがちで、実態調査もほとんどなく「見えない」存在とされてきました。当事者や問題意識を持つ人に話を聞き、芽生え始めた支援の取り組みを取材しました。

 大阪府の女性(37)は、2年前から鉄道会社の契約社員。求人票には、契約更新のときに昇給の可能性があると書かれていましたが、実際に上がるのは府の最低賃金が上がったときのみ。今の時給は最低賃金の883円で、月収9万~12万円です。再雇用で働く父(67)、専業主婦の母(63)、アルバイトの弟(36)と暮らしています。父の再雇用期間が終われば、親の収入は年金だけ。「今度は私が支えていかないと。でも、今のままじゃできない」

 同期の契約社員は、20代の独身女性と30代後半の既婚女性。「まだ先のある若者」と「夫の給料がある妻」と思うと、同じ境遇だとは感じられないといいます。契約満期まであと約2年半。「40歳までに結婚して、子どもができるまで仕事を続けたい」と考えています。

 兵庫県の女性(43)は高齢者施設の正規職員だったときに体を痛めて転職せざるを得ず、障害者施設の契約社員などを経験しました。「就活と婚活と妊活とスキルアップを同時にしなければならないかと思うと、回し車を走るハムスターのよう」と振り返ります。その後、療養しながら国家資格を取り、福祉団体の正規職員になりました。「支援を求めて団体を訪れる人に『強くなれ』『たくましくなれ』とは言えない。弱さにも意味があると伝えたい」

 「今が人生の中で一番つらい」。福岡市の女性(52)は20代後半から非正規職を転々としています。30代までは事務職の求人が多くありましたが、40代になると新しいパソコン技術に対応できず、職が限られるようになりました。

 今は電話営業のアルバイトをして約1年半。更年期障害で体調を崩し、仕事を休んでいます。最近は医療費を出す余裕がなく、受診していません。月収約10万円で、家賃月4万円のマンションに一人暮らし。携帯電話は通信料を捻出できず、持ったことがありません。

 行政窓口に生活保護の相談に行きたくても、身内に連絡が行って迷惑がかかるのではないかと心配で、頼れないと感じます。同じバイトの既婚女性から「結婚したらいいのに」「これから結婚できるかもよ」と何度も言われました。「簡単に言わないで」と傷つき、会話を避けるようになりました。「一人ひとり生き方は違うのに、型にはまった生き方の人しか制度に守られていないような気がする」と話しています。

 横浜市の女性(43)は大学の外国語学部で学び、外資系金融機関の正社員になりました。時代は就職氷河期。100社余りに応募し、卒業直前に唯一得られた内定でした。

 働いて2年、別会社との合併を機に始まった早期退職制度に応募し、退社。仕事のために語学を磨こうと、海外に留学しました。帰国後、語学を生かせる仕事は非正規ばかり。派遣の英語補助員、高校の臨時教員、貿易会社や財団の契約社員として働いてきました。

 「長く働きたい。キャリアがバラバラにしか積めない不安から抜け出たい」。そんな思いをずっと抱いていました。

 今年3月の契約満了前から、200社余りに応募し、うち1社から正社員の内定を得ました。自分に何がアピールできるか。「色々な人と交流できる」「状況に合わせ臨機応変に対応できる」。転職を短所と感じてきましたが、長所にもなると、面接を重ねるうちに気づいたそうです。「非正規の経験をへて、生き延びる知識を身につけられましたが、正規と非正規では待遇に雲泥の差があると、今痛感しています」

■就労・仲間作り、支援の芽

 各地で支援の取り組みが始まっています。

 横浜市男女共同参画推進協会は、非正規で働く独身女性を対象にした調査結果をもとに、今月から講座を始めます。強みを生かし正社員転換や副業を探る方策、職場のトラブルを回避する話し方や聴き方、親の介護や自分の老後に向けた金銭や住まいの備えなど全3回。派遣から正社員に転じた女性らの体験を聞く時間も設けます。同協会はこれまで、結婚・出産後の再就職、無職で若い女性の就労に向けた支援事業をしてきました。その中に「非正規で働く単身の中年女性」が訪れ、「見えていなかった困難層」が浮かび上がりました。同協会事業企画課の白藤香織課長(47)は「初職から非正規で働く女性たちは特に不安が大きい。先行きを一緒に考える講座にしたい」。講座では、調査で見えた「雇用の継続」「低収入」といった不安を少しでも和らげようと、実践的な情報を盛り込んでいます。

 講座は12日、26日、12月10日の午後1時半、横浜市戸塚区のフォーラム(045・862・5141)。無料。要申し込み。先着20人。

 福岡市を拠点にキャリアコンサルタントが働く女性の相談に乗る「自律・自立支援倶楽部」は、非正規で悩む女性が内面を見つめ直す講座を開いています。

 市男女共同参画推進センターで9月から始まった「これからの自分を語るほっとルーム」。10月の回には30~50代の8人が参加しました。

 自身で短所だと感じる点を発表し、他の参加者が長所に言い換えます。「人と比べてしまう」は「向上意欲が高い」、「考えすぎ」は「危機管理ができる」――。後ろ向きな思考を少しずつ前向きにし、今後の目標を書きます。「同じ境遇の人とグループをつくる」「人並みの生活ができるよう経済的に自立」。中には「将来が見えず書けない」という人もいました。

 「苦しい生活を自分のせいだと責め、自己肯定感が低くなっている人が多い」。同倶楽部のメンバーで自身も非正規で働く成瀬穫美(えみ)さん(47)は言います。「時代や社会の影響があると知り、まず気持ちを回復させる。前向きになれば、情報や仲間を集めたり声を上げたり動き出すことにつながります」

 次回は11月26日午後1時半、同センター。健康や金銭の不安を語り合います。参加費500円。問い合わせは同倶楽部主宰の安藤美智子さん(090・8413・3106)。

 大阪府豊中市のとよなか男女共同参画推進センターは2014年から「39歳くらいまでの生きづらさ・働きづらさを感じているシングル女性」を対象に講座を開いてきました。臨床心理士による気持ちの伝え方のレッスン、同じ悩みを持つ先輩へのインタビュー、料理を通したセラピーなど昨年9月までは単発で計4回。「続きはないのか」「また集まりたい」という要望を受け、今年から通年にし、5月から月1回開いています。

 「非正規の女性は短期間で職を転々とし、人間関係が途切れがち。年齢が上がるほど同年代は結婚や出産、仕事などで忙しく、同じ思いの人と出会えず孤立しています」。自らも同じ経験がある担当の藤長恵子さん(39)はそうみます。「就職超氷河期」世代で新卒時の仕事は大学の非常勤職員。医療系企業の正社員に転職後、職場で同僚がいじめられている姿に耐えられず退職しました。同センターで2年間の嘱託職員をへて、6年前に正職員に。「当時の私も仲間がほしかった」

 講座は「おとなGirls部」と名づけ、自己紹介カードの交換やネイルの装飾、お茶会などを通して仲間作りを目指してきました。来年3月に参加者の主催で、家で眠ったままになっている服の交換会を開くため準備会を始めています。

 次回の準備会は11月27日午後2時、同センター(06・6844・9773)。チラシのデザインなどを話し合います。無料。要申し込み。

 無料の電話相談を中心に活動している「働く女性の全国センター」(事務局・東京)は今年3月、対話の技術を身につけるワークショップを始めました。代表で自らも非正規職の栗田隆子さん(43)は「職場や社会に改善を訴えるには、同じ境遇の人とつながり、雇用主といたずらに対立しないで交渉する『対話』という道具が必要です」。

 11月18日と12月16日は、違いを生かしたチーム作りや話し合いによる合意形成をテーマにワーク。両日とも午後7時、東京都渋谷区の国立オリンピック記念青少年総合センター。会費は会員500円、非会員1千円。先着20人。申し込みは事務局(03・6803・0796)。(花房吾早子)

■住まいに優遇・手当なし

 35~44歳の未婚率は上昇を続け、シングルのまま年を重ねる人は少数派ではなくなっています。この世代の働く未婚女性の4割近くは、不安定で福利厚生も不十分な非正規雇用。男女の賃金格差も深刻です。

 公益財団法人「横浜市男女共同参画推進協会」が昨年、こうした層の女性の実態を調べたところ、仕事や老後への不安や、能力向上の機会や住まいの支援を望む声が多く寄せられました。非正規で働く未婚女性は正規で働く未婚女性と比べ、頼れる相手が少ないという調査結果もあります。身分の不安定さや、交友関係を広げるゆとりのなさから、孤立しがちな女性たちの姿が浮かび上がってきました。

 実家など持ち家暮らしでない場合、特に住宅の問題は切実です。家賃負担の軽い公営住宅は「狭き門」。国土交通省によると、公営住宅の応募倍率は東京都で22・8倍、神奈川県で12・0倍、大阪府で10・5倍という高さです(14年度)。多くの自治体は「月収15万8千円以下」を応募の目安としていますが、母子・多子世帯や高齢者、生活保護受給者らが優先され、独身で働く中年女性ははじかれがちなのが実情です。

 生活困窮者の相談支援をするNPO法人ほっとプラスの代表理事・藤田孝典さんは「社会保障制度は女性は結婚することを前提としている。離職や失業で困窮すれば家賃を補助する制度があるが、非正規で働くシングル女性への手当は皆無と言っていい」と指摘します。

■「稼ぎ主=男性」の崩壊 ノンフィクションライター・飯島裕子さん

 経済的に不安定な独身女性を取材した「ルポ 貧困女子」(岩波新書)を9月に出版しました。取材を始めた2012年当時、私も30代シングルでフリーランスと不安定で、自分の問題でもありました。

 若い男性の非正規労働者が増え、メディアが彼らを「ワーキングプア」「ネットカフェ難民」などと取り上げると、社会問題になりました。一方、未婚で非正規の女性が増えても、社会構造の問題とは考えられません。そもそも女性の働き方は、パートや派遣などの非正規と、低賃金がデフォルト(初期値)でした。それでも、未婚女性なら「いずれ結婚すれば、解決すること」、既婚女性なら「夫の稼ぎを補うもの」と捉えられ、問題視されてこなかったのです。

 背景には、女性は独身の頃は父親に、結婚すれば夫に扶養される「男性稼ぎ主モデル」があります。しかし、未婚率の増加や「稼ぎ主」であった男性雇用の悪化で、このモデルは崩壊し、家庭内に隠されていた女性の貧困が顕在化してきました。

 本の帯には「アラフォー/非正規/シングル/子どもなし 気がつけば、崖っぷち」と書かれています。取材で出会った女性たちの多くが、そんな心境を抱えていました。崖っぷちに立ったのは「努力が足りなかったから」だと自分を責めている人も少なくありません。

 一方で、正規と非正規、未婚と既婚など、女性間の格差も広がっています。最近の女性活躍推進の動きは、正社員として働きながら子どもを育てる女性や管理職で働く女性が対象で、非正規や未婚の女性たちに光を当てていません。女性活躍をうたう社会は、彼女たちをますます生きづらくさせているように感じます。

 非正規のために、職場や社会とのつながりも希薄で、悩みを打ち明けられるような人との出会いも限られることがあります。同じ立場の人や話を聞いてくれる人とつながる場や機会があるといいと思います。彼女たちは倹約が上手で、身の丈に合った暮らしをしていました。それでもシングル女性が自立して生活するのには、経済的にも精神的にも非常に厳しいのが今の社会。いざという時に使える資源は生活保護くらいしかありません。非正規でも、自立して生活できる賃金と雇用保障が必要です。彼女たちは両親が年金暮らしに入る年代。今後は親の介護などが必要になり、一層問題は深刻化していくと思います。(聞き手・宮島祐美)

■偏見捨て、脱貧困政策を 作家・活動家の雨宮処凛(あまみやかりん)さん

 最近、賃貸物件の入居審査に初めて落ちました。69歳になる自営業の父は今も現役ですが、保証人となるには高齢すぎると判断されたようです。収入が不安定な独身中年女性で父親が高齢となると、部屋を借りることもままならない。別の物件に引っ越せましたが、家賃と管理費に加え、家賃保証会社に月7千円払うことに。社会的信用がないことで生じる「貧困税」「不安定税」のようなものと感じます。

 非正規で貧困状態にある未婚の女性はじわじわ増えてきていたのに、「いずれ結婚して家庭に吸収されるだろう」と、政治は真剣に向き合ってこなかった。対策が遅れに遅れ、かなり取り返しのつかない事態になっていると思います。

 「若者」は政策の対象になりますが、35歳や40歳を過ぎて非正規、独身だと「えたいのしれない浮遊した中年」のようにとらえられ、自己責任だと責められる。これは非正規の中年男性も同じですが、女性は「出産可能年齢」を過ぎると社会の「お荷物」感が一層増し、婚活市場でも残酷なほど「価値」が暴落します。

 未婚率も非正規率も上がっているのに、女性が一人でも無理なく生きていくモデルは全く確立されていない。「中年女性」でイメージされるのは、夫と子どもがいて、パートで働く女性たち。そうではない女性たちに対し、「家庭を築くより趣味を優先させた独身貴族」というような偏見があると感じます。当事者の女性たちが声を上げないのは、そうした偏見や自己責任論に傷つけられることが経験上わかっているからでしょう。

 昨年、川崎市の簡易宿泊所の火災で11人が亡くなりました。身近な女性たちから「将来の自分の姿だ」という声を多く聞きました。老後少ない年金だけでは家賃を払えない。同世代の独身女性が集まると「他人を傷つけずに、できるだけ長く刑務所に入る方法を思いついた」なんて話が出てくる。「餓死か自殺かホームレスか刑務所か。最悪の4択だね」とか。独身中年女性のリアルです。

 まずは、国会など政策決定の場に女性を増やし、偏見や自己責任論を排して、こうした女性たちを政策の対象ととらえることを望みます。男女の賃金格差も是正し、女性がいつまでも貧困から抜け出せない状況を改善してほしい。年金などの社会保障制度を、家族単位ではなく個人単位を基本とするよう見直すことも必要だと思います。(聞き手・三島あずさ)

■多様な人生に応じた政策を

 「やっと私たちのことを取材してくれた」と複数の方から言われました。特定の生き方しか想定していない制度や意識の陰で、息苦しさを押し殺す女性たち。このままでは困窮を極めた高齢層を生み出しかねません。実態を今後も伝え、多様な人生に応じた政策につながればと思います。(花房吾早子)

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