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 厚生労働省主催の「過労死等防止対策推進シンポジウム」が9日、東京都内であり、広告大手、電通の新入社員だった娘を過労自殺で失った高橋幸美さん(53)が登壇した。

 幸美さんはこの日登壇した遺族の1人。長女のまつりさん(当時24)が電通に入社したころの希望に満ちた様子や、昨年末に自ら命を絶つまでのやりとりを約10分間にわたって話した。

 「大好きで大切なお母さん。さようなら。ありがとう。人生も仕事もすべてがつらいです。お母さん、自分を責めないでね。最高のお母さんだから」。亡くなった朝にまつりさんが送ってきたメールを、声を詰まらせながら読み上げた。 まつりさんが長時間労働を強いられるようになったのは、昨年10月に本採用になってから。幸美さんは「土日出勤、朝5時帰宅という日もあり、『こんなにつらいと思わなかった。今週10時間しか寝ていない。会社やめたい。休職するか退職するか、自分で決めるので、お母さんは口出ししないでね』と言っていた」と振り返った。

 11月には、まつりさんが25年前に電通で起きた過労自殺の記事を持ち出して「こうなりそう」といってきたことがあり、高橋さんは「死んじゃだめ、会社やめて」と返したという。

 電通の企業体質にも触れ、「社員の命を犠牲にして業績をあげる企業が、日本の発展をリードする優良企業と言えるでしょうか。有名な社訓には『取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的を完遂するまでは』とありますが、命より大切な仕事はありません」と訴えた。

 電通が午後10時以降の深夜業務の禁止など、労務管理の改善策を打ち出したことについては、「大切な人の命を預かっているという責任感を持って、本気で改革に取り組んでもらいたい」「伝統ある企業の体質や方針が一朝一夕に変えられるものではありません。しかし、残業時間の削減を発令するだけでなく、根本からパワハラを許さない企業風土に改善をしてもらいたい」と要望した。

 複数の部署で違法な長時間労働をさせていた疑いで、東京労働局などが電通の強制捜査に入ったばかり。幸美さんの代理人を務める川人博弁護士も登壇し、「上司が適切な労務管理をしていなかった。二度と犠牲を出さないよう必要な調査、捜査をしてほしい」と話した。

 シンポは一昨年に施行された過労死等防止対策推進法に基づいて厚労省が開いており、今年は42都道府県、43カ所で開かれる。今後の予定はhttps://www.p-unique.co.jp/karoushiboushisympo/別ウインドウで開きます。(編集委員・沢路毅彦)

根本からパワハラを許さない企業風土に

 過労自殺した高橋まつりさんの母、幸美さんの「過労死防止対策推進シンポジウム」での発言(全文)は次の通り。

     ◇

 こんにちは。わたしの最愛の娘は、高橋まつりといいます。娘は昨年12月25日、会社の借り上げ社宅から投身し、自らの命を絶ちました。3月に大学を卒業し、4月に新社会人として希望を胸に入社してからわずか9カ月のことでした。

 娘は高校卒業後、現役で大学に入学しました。大学3年生の時は文部科学省の試験に合格して、1年間北京の大学に国費留学しました。帰国後も学問に励み、持ち前のコミュニケーション能力を生かして就職活動に臨みました。そして早い時期に内定をもらい、大手広告代理店に就職しました。

 娘は「日本のトップの企業で、国を動かすようなさまざまなコンテンツの作成に関わっていきたい」「自分の能力を発揮して社会に貢献したい」と夢を語っていました。

 入社してからの新人研修でも積極的にリーダーシップをとり、班をまとめた様子を話してくれました。「私の班が優勝したんだよ」と、研修終了後にはうれしそうに話してくれました。「あこがれのクリエーターさんにアイデアを何回もほめられたのを励みにがんばるよ」と希望に満ちていました。

 5月になり、インターネット広告の部署へ配属されました。「夜中や休日も仕事のメールが来るので対応しなければならない」と言っていました。締め切りの前日は、終電近くまでがんばっていましたが、9月ごろからたびたび深夜まで残って仕事をするようになりました。

 週明けに上がってきたデータを分析して報告書を作成し、毎週クライアントに提出する仕事に加え、自宅に持ち帰って論文を徹夜で仕上げたり、企画書を作成したりしていました。10月に本採用になると、土日出勤、朝5時帰宅という日もあり、「こんなにつらいと思わなかった」「今週10時間しか寝ていない」「会社やめたい」「休職するか退職するか、自分で決めるので、お母さんは口出ししないでね」と言っていました。

 11月になって、25年前の過労自殺の記事を送ってきて「こうなりそう」と言いました。私は「死んじゃだめ、会社やめて」と何度も言いました。

 このころ先輩に送ったメールに「死ぬのにちょうどいい歩道橋を探している自分に気がつきます」とありました。SNSには、パワハラやセクハラで個人の尊厳を傷つけられていた様子もたびたび書かれていました。

 私には「上司に、異動できるか交渉してみる。できなかったら辞めるね」と言っていましたが、仕事を減らすのでもう少し頑張れ、ということになったようです。

 しかし、12月には娘を含め、部署全員に36協定の特別条項が出され、深夜労働が続きました。その上、忘年会の準備にも土日や深夜までかかりきりになりました。

 「年末には実家に帰るからね、お母さん、一緒に過ごそうね」と言っていたのに。クリスマスの朝、「大好きで大切なお母さん。さようなら。ありがとう。人生も仕事もすべてがつらいです。お母さん、自分を責めないでね。最高のお母さんだから」とメールを残して亡くなりました。

 社員の命を犠牲にして業績をあげる企業が、日本の発展をリードする優良企業と言えるでしょうか。有名な社訓には「取り組んだら放すな、殺されても放すな、目的を完遂するまでは」とあります。命より大切な仕事はありません。娘の死はパフォーマンスではありません。フィクションではありません。現実に起こったことなのです。

 娘が描いていたたくさんの夢も、娘のはじけるような笑顔も、永久に奪われてしまいました。結婚して子供が生まれ、続くはずだった未来は失われてしまいました。私が今、どんなに訴えかけようとしても、大切な娘は二度と戻ってくることはありません。手遅れなのです。

 自分の命よりも大切な愛する娘を突然なくしてしまった悲しみと絶望は、失った者にしかわかりません。だから、同じことが繰り返されるのです。

 今、この瞬間にも同じことが起きているかも知れません。娘のように苦しんでいる人がいるかもしれません。

 過労死・過労自殺は偶然起きるのではありません。いつ起きてもおかしくない状況で、起きるべくして起きているのです。

 経営者は社員の命を預かっているのです。大切な人の命を預かっているという責任感を持って、本気で改革に取り組んでもらいたいです。伝統ある企業の体質や方針が一朝一夕に変えられるものではありません。しかし、残業時間の削減を発令するだけでなく、根本からパワハラを許さない企業風土や業務の改善をしてもらいたいと思います。残業隠しが再び起こらないようにワークシェアや36協定の改革、インターバル制度の導入がなされることを希望します。

 そして、政府には、国民の命を犠牲にした経済成長第一主義ではなく、国民の大切な命を守る日本に変えてくれることを強く望みます。

 ご静聴ありがとうございました。