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 将来の胃がん予防のため、中学生を対象にピロリ菌の検査・除菌に乗り出す自治体が出てきた。除菌に使われる薬には副作用もあり、専門家はデメリットを含めた正確な説明が必要だと指摘する。

 「早い段階でわかってよかった」

 佐賀市内に住む中学3年の男子の母親(37)はこう話す。男子は、佐賀県が今年度始めたピロリ菌検査で陽性と判定された。今夏、除菌のために抗生物質など4種類の薬を朝夕2回、1週間服用し、再検査で除菌が確認された。費用は県の負担。母親は「再感染はゼロではないが、胃がんにつながる要因を若い時に消せた。自己負担だとなかなか受ける機会がなく、下の子もいるので事業をこのまま続けてほしい」と話す。母親自身も近く検査を受けようと考えているという。

 佐賀県では、同意が得られた中学3年生を対象に、学校検診の検尿の残りを利用して、ピロリ菌感染を調べている。陽性と判定されると便による2次検査に進み、陽性の場合、除菌の対象になる。

 今年9月時点で、県内中学3年生の8割近くに当たる6953人が1次検査を受け、399人(5・7%)が陽性。うち279人が2次検査を受け、208人が除菌対象となった。冒頭の男子のようにすでに除菌を受けた生徒もいる。

 佐賀県は胃がんによる死亡率が全国的にみても高い。県から事業を委託されている佐賀大医学部付属病院の垣内俊彦医師(小児科)は「結果がわかるのは30、40年後になるが、胃がんにかかる人を減らすのが目的」と話す。

 中学3年生は体格が大人に近づき、15歳以上で成人と同じ用量で除菌薬が服用できる。中学卒業後に県外に出る生徒がいる点なども考慮した。今年度は検査代や薬代、診察代に約3700万円を計上している。都道府県レベルでは初めての試みという。

 昨年7月に早期胃がんの手術を受けたという山口祥義知事は県議会で「本人にとどまらず、周囲の大人たちへのがん理解の促進や検診のきっかけになれば」と説明した。実際、生徒の感染を契機に、自費で検査・除菌を受けた保護者もいるという。

 市町村レベルで、中学生らを対象にピロリ菌検査と除菌に取り組む自治体は増えている。

 岡山県真庭市では13年度から中学2・3年生を対象に実施、翌年度には大阪府高槻市や兵庫県篠山市でも始まった。北海道や秋田県、山形県、長野県などにも実施する市町村がある。山形県鶴岡市や大分県臼杵市が来年度からの導入を検討している。

「デメリットも説明を」

 一方、ピロリ菌感染者が必ずしも将来、胃がんになるわけではなく、若い世代への除菌が胃がんを減らす効果はまだ実証されていない。佐賀県では除菌を受けた生徒を5年ごとに追跡調査していく方針だ。

 除菌薬には下痢や味覚異常などの副作用が報告されており、胃炎などの症状が出ていない段階での除菌には慎重な見方もある。

 国立がん研究センターの斎藤博・検診研究部長は、「除菌する人が増えれば、確率的には重い副作用を発症する人も出てくる可能性が否定できない。感染しているが無症状の『健康な人』への積極的な除菌が、無用な害を与えるおそれがある」と指摘する。

 佐賀県では今のところ大きな副作用の報告はないというが、除菌する医療機関を24時間対応可能な県内23施設に絞り、異常があれば施設へ問い合わせするよう呼びかけている。

 斎藤さんは「検査や除菌のメリットとデメリットを正確に説明し、生徒や保護者が納得の上で受けてもらうことが欠かせない」と話している。(川村剛志)

ピロリ菌感染と胃がん

 ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ)は、胃の粘膜に生息する細菌で、胃がんや慢性胃炎、胃潰瘍、十二指腸潰瘍の原因になる。ほとんどは幼児期に口から感染し、食べ物の口移しも原因の一つと考えられている。現在、胃潰瘍や十二指腸潰瘍、胃炎がある場合は公的医療保険による除菌の対象になる。

 世界保健機関(WHO)は2014年、胃がんの8割はピロリ菌感染が原因とみなされるとして、各国に除菌などの対策の検討を勧める報告書を発表した。日本ヘリコバクター学会では今夏、7年ぶりに改訂したガイドラインの中で「中学生以降では早期の除菌が望ましい」と提言している。

 国内の感染者は中高年を中心に約3500万人といわれるが、衛生状態が良くなったことなどで若い世代ほど感染率は低い。現在、新たに胃がんにかかる人は年間約13万人で、ほぼ横ばい状態だが、いずれは減少に転じると予測されている。

<アピタル:もっと医療面・がん>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/iryou/