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 「さくら」は、滋賀県湖南市岩根の複合施設「十二坊温泉ゆらら」の看板犬だ。7カ月前、突然現れた。おなかに腫瘍(しゅよう)が見つかったときには、従業員と客の募金で手術。すっかりなじんで施設のアイドルになった。

 小雨降る4月6日の夜、おどおどした様子で正面玄関前を歩き回っていた。メスで推定8歳。毛は白色と薄茶色が混ざり、シバイヌに似ている。ベージュ色の首輪を付けていた。副支配人の奥村幹郎さん(55)が施設裏の軒下に連れていき、レストランの残飯を食べさせた。桜が満開の頃にやってきたことから、さくらと名づけられた。

 2日後、地元の女性が腹部にこぶし大のできものを見つけた。動物病院で「おそらくガン。早く取らないとだめだ」と診断された。手術代は約9万円。従業員の間でカンパを募り、5万円集めた。フロントに募金箱を設置し、利用客にも協力を仰ぐと、2日間で5万円が集まった。「また会いに来るから、ちゃんと飼ってあげて」と募金した人もいたという。

 「無理だと思っていたので、本当にありがたかった」と奥村さん。4月下旬、手術は成功。募金はその後も続き、累計で20万円になった。術後の通院費のほか、エサ代にあてている。奥村さんら従業員約20人がエサやりや散歩を交代でしている。冬を控えた10月末、小屋として使っていた古い棚の代わりに、木の廃材で犬小屋を新調した。

 手術後のさくらは、従業員にも客にもなつき、今や施設に欠かせない存在。犬小屋の前や散歩中にお客さんに出くわすと、しっぽを振って寄っていく。「かわいい」などと声をかけられながら、利用者に顔をなでてもらうのが日常の光景となった。

 さくらと出会ってすぐにフェイスブックの施設の公式アカウントに画像などをアップし、情報提供を呼びかけたが、飼い主につながる手がかりは得られていない。奥村さんは「飼い主が見つかれば、引き渡さないといけないと思うけど、なついていて情も移っている。このまま面倒を見続けたい、という思いもある」と話す。(仲大道)