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 「ワンオペ育児」。母親たちの間で、そんな言葉が広まりつつあります。牛丼店などで従業員1人が全ての業務を切り盛りすることで問題になった「ワンオペ(ワンオペレーション)」が語源で、育児や家事を1人で担い、破綻(はたん)寸前の状況をあてはめています。背景にあるものは。

 「遅くなります」。夕方、夫からメールが届く。2歳の娘がいる中国地方の主婦(31)の心はしぼむ。

 不妊治療を経て出産。「待ち望んだ子だから何があっても大丈夫」と思っていたが、母乳育児でつまずいた。何をしても泣きやまない娘を布団に置き、ベランダで泣いたこともあった。

 周囲に子どもは少なく、気軽に相談できる友人もいない。「娘がかわいいから頑張れる」と言う残業続きの夫に悩みを打ち明けられず、「専業主婦だから家事も育児も頑張らなきゃ」と思い詰めた。車で2時間の実家に帰ると「ここで子育てできたら」と思うこともあるが、夫も娘の顔を見るのを楽しみに働いている。「ワンオペ育児でつらい」。ブログにつづった。

 何をする気力もなくなり、9月に心療内科へ。医師から「昔は祖父母や近所の人ら、たくさんの人で子育てをしていた。母親1人でやるのはとても大変。もっと周りを頼って」と助言され、一時保育を利用して、少し楽になった。

 「ワンオペ育児」という言葉がツイッターなどで広まっている。背景には、ひとり親や単身赴任の家庭が増えているほか、長時間労働で夫が不在がちのため、妻が実質的に1人で育児と家事を担わざるを得ない事情もあるという。

■「このままだとおかしく」

 東京都品川区の女性(34)はツイッターでこの言葉を見つけ、「私のことだ」と思った。フリーランスでウェブ系の仕事をしているが、4月の出産後に生活は一変。泣く子をなだめながら、ご飯をかき込み、お風呂にもゆっくり入れない日々が続いた。

 IT企業で働く夫は深夜までの残業が日常。自身もかつては同じように働き、出産2週間前まで働いただけに、気持ちはわかる。夫に気を遣って別々の部屋で寝ていると、「気付かないうちに子どもに何かあったら」と思うと気が張って眠れなくなった。土日は同僚が出勤しても夫は休みを取ってくれる。でも、生活が激変した自分との違いに不公平感が募った。子どもをかわいいと思えず生後1カ月の時、「このままだとおかしくなる」と実家へ。専業主婦の母は「男の人はそういうもの。期待しちゃだめ」と、かみ合わない。友人にも話しづらく、ツイッターだけがはけ口だった。

 7月からベビーシッターを頼み、在宅で仕事を再開。「お座りが上手になりましたね」と日々の成長を喜び合える相手ができたことが救いだ。「でなかったら、ストレスで爆発してたかも」。

 子育て世帯の生活調査をしている藤田結子・明治大教授(社会学)は「1人で家事と育児、人によっては仕事も担う状況は、休みなく働かされるブラック企業並み。『ワンオペ育児』にはそのニュアンスが含まれ、共感につながっているのでは」と指摘する。

 総務省の社会生活基本調査(2011年)によると、家事関連に使われる時間は、女性の平均1日3時間35分に対し、男性はわずか42分だった。女性の社会進出が進んでも、家事の大半を女性が担う状況は変わらない。厚生労働省の調査では、男性の休日の家事・育児時間が長い夫婦ほど第2子を持つ傾向があり、男性の協力の度合いが影響していることがうかがえる。

■つらい思い、伝えて改善も

 働き方も絡む問題だけに、解決策は見えづらい。一方、夫と話し合い、状況が改善した人もいる。

 小4と5歳の息子がいる宇都宮市の編集者の女性(38)は長男が3歳の頃、夫が中国に単身赴任した。元々家事には協力的でなく、「いなくても同じ」と思っていたが、次男が生まれると限界が来た。

 午後5時に退社し、学童保育と保育園を回って2人を引き取り、買い物と夕食を済ませ、お風呂に入れ、寝かしつけるともう午後10時過ぎ。子どもたちより先に寝てしまうこともあり、持ち帰った仕事があれば、午前4時に起きてした。次男が風邪をこじらせ入院しても付き添いができず、次男を抱っこして階段から落ちて尾てい骨を折った時は湿布を貼って乗り切った。

 「このままでは無理」と、夫にイクメンに関する新聞記事を見せて説得。「うちはほぼ母子家庭」と言うとムッとした夫も、「ワンオペ育児」という言葉は抵抗なく受け入れた。昨春、単身赴任先から戻ると、週2回は保育園のお迎えや夕食作りをしてくれるようになった。

 次男を夫に預け、長男と図書館へ行った。「健康で文化を楽しめる生活になった」。喜びをかみしめた。(仲村和代)