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 生まれつき右手首から先がない。持っている身体障害者手帳には、「先天性右前腕欠損」とある。幼少時から、手指は動かない「装飾用義手」を身につけてきた。だが、技術革新は進んでいる。筋肉を動かす際に流れる微弱な電気を読み取り、電動で手指を動かす「筋電義手」の進歩が目覚ましい。「動く右手が欲しい」。記者が47歳にして挑戦した。

 手がないことで不便なことは数多くあった。ひもが結べない、バットやグローブを持ちにくく野球がしづらい、右手を差し出されても握手を返せない、名刺交換が難しい……。小学生の頃、友人に「手なし」とからかわれたこともあった。

 去年の初め、友人から筋電義手について聞かされ、その存在を初めて知った。技術革新によって、障害者の可能性はどんどん広がっている――。そう気づいて、3Dプリンターを使って筋電義手を自作する過程を昨秋、本紙別刷り「GLOBE」で記事にした。

 だが、使いこなせない。現状は、使い方を体得するのに8週から10週間も入院しての訓練が必要なのだ。

 向かったのは、兵庫県立総合リハビリテーションセンター(兵庫リハ)。訓練用筋電義手がそろい、義肢装具士や作業療法士などが常駐し、国内でも進んだ施設である。

 厚生労働省の統計によると、神奈川県内で2014年度末、身体障害者手帳を持っているのは約25万人。そのうち、手や指が不自由な人は約2万7千人だ。義足を含む義肢の購入は年度に402件あったが、義手はそのうちの約15%にあたる62件に過ぎない。県内で筋電義手に挑戦できる医療機関は、川崎市の関東労災病院などに限られている。

 いま、国内に流通する筋電義手はドイツ製だけだ。「グー」と「パー」の動作に限られ、手の向きは別の手で変える。日常生活の動作を繰り返し、腕の筋肉を「グー」と「パー」で使い分けることを体得しなければならない。仕事との兼ね合いで8月1日から6週間で挑んだ。

 到着した病室で、右手が動けばどんなことが出来るか思いをはせた。「こんなことまで出来るんだ!」と喜ぶか、「やっぱり出来ることは限られるんだ」とがっかりするか。健常者には当たり前のことが出来ない自分にとっては、期待と不安が入り交じる複雑な心境だった。

 初日の夕方、作業室に呼ばれて石膏(せっこう)を塗ったガーゼを右前腕に巻き付け、型どりをした。筋電義手をつなぐ「ソケット」という重要部材をつくるためだ。

 通常は筋肉を鍛えて腕が太くなってから作るが、限られた入院期間のため先になった。作業療法士の柴田八衣子さん(46)によると、ソケットの適合具合で挫折せず筋電義手を使えるかどうかが決まるらしい。

 翌日から、ひたすら筋電を取る練習を重ねた。右前腕に筋電を読み取る電極を二つ装着。筋電の強さに応じてランプが点灯するパソコンソフトを使うと、筋電の出具合がわかる。自分だけで訓練が出来る仕組みのため、初めの1週間は朝から晩まで黙々と続けた。

 2週目には、訓練用の筋電義手が完成。早速はめてみたが、うまく動かせない。筋肉の使い分け訓練が、まだまだ足りないようだ。木製おもちゃやブロックをつかんだり放したり、タオルを両手でつかんで体をひねったり。とにかく「空間での両手作業」を意識した訓練を重ねた。

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岩堀滋

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