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 記者(47)が自分の意思で動かせる「筋電義手」に挑戦しようと、訓練をする病院に入院して2週間。少しずつ「グー」「パー」の動作ができるようになってきた。3週目以降は、日常生活動作(ADL)の訓練も増えた。

 洗濯物を持ってしわを伸ばし、たたむ。布団の上げ下ろしをする。紙テープを縦にちぎり、重い本やペットボトルをつかんで上げ下ろし。右手の欠損部分までが長い私は、手や腕と体でこれらを挟むとどの作業も出来るが、筋電義手を使うことでより素早く対応出来る。食器を持って食べ物も口にかき込める。このことがこんなにうれしいとは思いも寄らなかった。

 すると、気持ちに少し余裕が出来たせいか、外来受診や訓練で病院にやってくる私と同じ欠損の子どもたちが気になり出した。横浜市港北区の石川梓さん(35)の長男晴也(はるや)ちゃん(1)もそうだった。

 先天性の右前腕欠損。筋電義手の存在を知った梓さんが近場での訓練を目指したが、乳児から十分に対応出来る施設は見つからなかった。実家のある大阪市内で出産したことから、病院の紹介で兵庫県立総合リハビリテーションセンター(兵庫リハ)を受診した。

 普段は装飾用義手を装着。兵庫リハで筋電義手を訓練する。梓さんは「義手をいやがることもあり、とにかく慣れさせています」とまだ不安げだったが、常に義手を装着している身として「いずれ慣れますし、技術も進歩していますから何とかなりますよ」と応援せずにはいられなかった。

 とはいえ、筋電義手を使うのが不安なのは自分も同じだった。入院3週目からは肉じゃがやエビチリ、カレーライスなどの調理訓練も開始。磁力が発生する電磁調理器の前で意図せずに手が開き、フライパンが重くて義手で持つことが難しいことなどがやってみて初めて分かった。パソコン操作は依然として難しく、片手作業になるのが残念だ。

 県内でも、限られた医療機関では同様の筋電義手訓練が出来る。そのうちの一つが、川崎市中原区の関東労災病院だ。

 急性期病院だが、リハビリテーション科部長の小山浩永医師が着任した2008年から筋電義手に取り組み始めた。復職や就労支援目的でこれまで成人男性13人に処方。規模は異なるが兵庫リハと同様の訓練メニューが備えられ、筋電義手に詳しい義肢装具士と5人の作業療法士で対応出来る態勢になっているという。

 小山医師は「手を失い途方に暮れて相談してくる人もいれば、筋電義手の装着で生活が安定した人もいる。今後も積極的に筋電義手に取り組みたい。先天性欠損でも構わない」と話す。こんな施設が身近にあれば、筋電義手もより普及するのかもしれない。

 兵庫リハの訓練では週1回、発達度合いを測る「テスト」も課された。限られた時間内にブロックや鉄、発泡スチロールの玉を移動させたり、ジッパーや鍵の開け閉めを試したりする。

 当初はジッパーと鍵の開け閉めに大苦戦。こなすまで数分もかかった。訓練を重ねるうちに時間は次第に短縮し、ブロックなどを移せる個数も増えていった。「脳」で考えた動きを再現するのが大変だったが、少しずつ思うように筋電義手を動かせるようになっていくのが不思議だった。

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岩堀滋

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