9月になり、記者(47)が自分で動かす「筋電義手」の訓練も終盤に。病室での日々の暮らしも含めた日常生活動作(ADL)が出来るかどうかがポイントになってきた。だが、つい習性で義手ではない左手でこなしてしまう。看護師長から「下膳を左手でやってる。筋電義手を使わないと訓練にならんよ。もったいないでー」と叱られた。

 訓練していると、作業療法士の柴田八衣子さんから「上肢切断ADL評価表」を渡された。「ズボンをはく」「布団を干す」などの基本項目から「排泄(はいせつ)動作をする」「ひげをそる」といった難しい項目まで、87の動作の一覧表だ。

 兵庫リハが独自に作成した表で、ほかの訓練施設でも指標として使われているという。最終的に自分が「動作可能」と判断したのは59項目だった。

 仕事でどのくらい筋電義手が使えるかも重要だ。記者の3大仕事は「メモ取り(取材)」「カメラ(撮影)」「パソコン(執筆)」。柴田さんには、筋電義手に装着出来るICレコーダーのケースをつくってもらったが、カメラとパソコンは難しいままだ。とはいえ、次第に本当の自分の右腕になってきたような気がして、筋電義手を入手したい気持ちが高まった。

 障害者総合支援法の適用を受ける場合、全額を自費で支払ってから居住する市町村に申請し、市町村負担分を受け取るのが一般的だ。この方法は「補装具費の公費負担」と呼ばれ、対象となるには訓練でスムーズな動きを修得することに加えて、「仕事で必要不可欠」なことを居住市町村に説明する必要がある。

 義手は厚生労働省が定める「補装具」だが、筋電義手はその特例扱い。国内で主流のドイツ製筋電義手は最安値で約150万円もするが、「公費負担」が認められれば、原則1割の本人支払いで済む。

 だが、普及への道は険しい。一定以上の所得があると公費負担の支給対象外となり、全額自費で賄うことになる。厚生労働省の統計では、神奈川県内で2014年度に「特例補装具」の義手、つまり筋電義手を購入した件数はゼロだった。

 入院中、私と同じ右前腕を約1年前の労災事故で欠損し、筋電義手の訓練に取り組む兵庫県明石市の井上龍彦さん(63)と知り合った。「65歳で悠々自適と思ったのに。心が折れて、かなりショックでしたね」

 労災保険を適用し、家族に励まされて筋電義手を訓練する。ないはずの手に痛みを感じる「幻肢痛」にも悩まされたが、今は前向きな気持ちだという。「筋電義手のことがもっと障害者に伝われば。記事でどんどん広めて」と励まされた。

 記者は9月9日に退院した。その後も厚意で訓練用筋電義手を借りたまま毎日朝から晩まで装着し、「自主訓練」を続けている。右手の動きを見せると、「どういう仕組みなのか」と驚かれることも多い。筋電義手が知られていないことの何よりの証拠なのだろう。

 果たして、自分が今後筋電義手を入手出来るのか出来ないのか、まだよくわからない。でも、「動く右手」が欲しい気持ちで取り組んだ経験は、何事にも代えがたいと思っている。=終わり

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岩堀滋