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 朝日新聞デジタルの第1回アンケート結果をみると、長時間労働で「最も失われていると思うもの」として、「心身の健康」を選んだ人が過半数に達しました。実態はどうなっているのでしょう。長時間労働が、心身の健康や仕事の効率性に及ぼす影響は――。みなさんから寄せられた声や、専門家の意見をもとに、考えます。

 産業医として30社ほどを担当する大室正志さん(38)が長時間労働の最大の要因と指摘するのは、管理職のマネジメント能力です。「発注にノーと言わない人が昇進し、無理難題を部下に押しつける。いつ何が降ってくるか分からない状態が、部下の心身を疲弊させる」

 一方で中間管理職も楽ではありません。40歳前後になると育児や介護の負担が重なり、若い頃のように体は動かない。「特に男性は女性に比べて体調の異変に鈍感。過度な疲労を自覚してから、悪化するまではあっという間」だといいます。

 心身の健康を保つために必須だと言うのは、残業時間の上限規制の導入です。「先が見える場合は多少の無理もきくが、終わりの見えない状態だと月40~60時間の残業でも心身に深刻な影響が出る。36協定(労働基準法を根拠とする労使協定)で基準とされている45時間くらいを上限とするのが妥当では」

 大室さんは「仕事の内容や、やり方は急速に変わっている。上司の経験したことのない仕事をする部下も多い。上司は部下の話を聞き負担を把握することが大切。『大丈夫?』と聞かれると反射的に『大丈夫』と答えてしまうので、聞き方の工夫もいる」。部下についても「負担を上司に伝えることが必要。産業医との面談を含め、『きつい』と言うことのマイナスを心配する人も多いが、無理を続けるマイナスとどちらがマシか考えてほしい」と話します。

「根性で効率アップ」は幻想

 長い時間働けば、その分成果があがるのでしょうか。日立製作所で人工知能の研究を率いる矢野和男さん(57)は、加速度センサーを身につけ、10年以上にわたり自身や被験者の1日の動きを記録しました。明らかになったのは、1日に動ける時間の長さや、体の部位を動かせる回数は人それぞれに決まっていて、「昨日の遅れを今日取り戻そう」と長時間働いても、こなせる仕事量は実はほとんど増えないということです。

 パソコンで文章を書く、歩く、などについて、速さや規則性ごとに動きを分析すると、効率よく動ける時間にはそれぞれ限りがある。「その配分を気合や根性で変えられるというのは一種の幻想」と言います。

 パフォーマンスや集中力には、日常生活の規則性が大きく影響するそうです。3年前からサッカーJ1柏レイソルの18歳未満の選手にセンサーを24時間装着してもらう実験をしたところ、練習の量と質だけではなく、睡眠や生活の規則性が試合でのパフォーマンスに影響を与えることがわかったといいます。

 別の実験では、平日は短時間睡眠で、週末に「寝だめ」するといった平日と休日の睡眠のばらつきが大きい人ほど、平日昼間の集中力が低くなるという結果に。矢野さんは「幸せな気持ちで働き、高い成果をあげるために、どんな時間の使い方が最適か。働き手も経営者も、精神論ではなく科学的に把握することが大切」と指摘します。(三島あずさ)

深夜勤務・持ち帰り仕事・接待…

 2014年の過労死等防止対策推進法施行を受け、厚生労働省が「過労死等に関する実態把握のための社会面の調査研究」をみずほ情報総研に委託しました。今年10月に出された「過労死白書」にその一部が掲載されていますが、それ以外にも日本の長時間労働をとりまく状況が浮かび上がってきます。労働者調査の回答は約2万件。その中から正社員についての興味深いデータを紹介します。

 長時間労働に、「サービス残業」の問題があります。実際の労働時間が正確に把握されているか、という質問に対し、回答は「正確」が48.2%、「概(おおむ)ね正確」が35.4%。「あまり正確ではない」は11.8%、「全く正確ではない」は4.6%でした。意外に正確と思われている、と感じたのは私だけでしょうか。

 平均的な週の残業時間は7.7時間。運輸、郵便業や教育、学習支援業では長くなっています。最長の週で13.8時間。男性の方が15.5時間、女性は8.9時間と差があります。

 長時間労働の中でも、深夜勤務は心身に負担がかかります。平均的な1カ月あたりの深夜勤務は「3回以上」が2割強。「21回以上」が全体の2.3%あります。

 持ち帰り仕事は「ある」が34.5%。そのうち、「ほぼ毎日」が12.4%。かなりの人が持ち帰り仕事をしているようです。

 過労死事件では、飲み会・接待が問題になることがあります。仕事に関連した飲み会や接待が「ある」は、59.9%。頻度をみると「月1回以下」が最も多く、59.0%。「ほぼ毎日」も1.5%。1回当たりの平均時間は2.8時間となっています。みなさんはどうでしょうか。

 調査の全文は、http://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11200000-Roudoukijunkyoku/0000124199.pdf別ウインドウで開きますもしくは、厚労省のホームページで読むことができます。(編集委員・沢路毅彦)

「人生の豊かさを犠牲」

 第1回のアンケートには、自身や家族の心身への影響について、多くの意見が寄せられました。

●「今は主人の自営の仕事を手伝いつつ育児をしています。以前の職場は医療関係で、診療が終わってから遅くまでの会議や医療事故の処理など業務が集中することが多く毎日のように残業でした。精神的に病んできて職場に居ることで責任が発生することがイヤでイヤで毎日死にたいと思っていた時期があります。誰か私の車に追突してくれないかなぁ……そしたら職場に行けなくなるのに……なんてことまで考えていたあの時期はもう壊れる寸前だったのかもしれません」(北海道・30代女性)

●「長時間労働と過重業務による心身負荷で、過労死寸前の状態になり、正社員を辞めざるをえませんでした。成長している企業ほど、社員・スタッフに高い目標を課し、高い負荷をかけて業務を回しています。国による労働時間上限の徹底規制・管理、業界による自主ルールの策定、労働者の仕事・会社最優先の意識見直し、過剰サービス社会の転換が必要だと思います」(茨城県・30代男性)

●「建設業です。営業や上役の人たちは仕事をどんどん受注します。現場は、キャパを超えていても無理してこなすしかないです。残業するくらい仕事量がなければ、会社としてやっていけないのかもしれません。他人の要望に応えることは、日本人の国民性なのかもしれません。国として規制強化してもらいたいです。GDPが高くても、株価があがっても、忙し過ぎてさっぱり幸せじゃありません」(山形県・40代男性)

●「1カ月前に長時間労働が原因で、双極性感情障害を患ってしまった。長時間労働は人の体力も、精神力も奪い、時にはその人を壊してしまう。前々から相談していたことなのに、どうして会社はもっとはやくわたしの話に耳を傾けてくれなかったんだろうと、いまでも悔しく思う」(福島県・20代女性)

●「高校の非常勤講師をしています。正規の教諭時代から、質の高い、正確な授業や教材づくりのため持ち時間の4倍以上の時間を費やすことになっています。当然、ほとんどサービス残業になります。家族との生活や自分の人生を豊かにするための活動を大きく制約して、高齢になってその現実を突きつけられているのも現実の姿です」(奈良県・60代男性)

●「私も夫も正社員で働いており、どちらも長時間労働です。平日の夫婦の会話はないに等しい。子どもがほしいと思っていますが、実家が地方で親を頼れず、子どもを育てる自信がなく、出産を望めません。労働者の心身の健康と、少子化の両側面で早期に改善すべき問題だと感じています」(東京都・20代女性)

●「現在海外転勤の夫のため北米に滞在しています。こちらに来て2年半たちますが来てから毎月時間外勤務時間は90時間から100時間です。土曜日出勤も当たり前のようにあります。あと2年半この調子が続きそうなので夫の健康面が心配です。私もひとりで3人の子育てのストレスのせいか慢性じんましんになりました。会社のトップが長時間労働禁止を徹底してくれない限り下の人間は立場が弱いので何も言えません」(海外・40代女性)

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