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 実業家のドナルド・トランプ氏が来年1月、米国の大統領に就任します。「異端」の候補は、政治に不満を抱く層の支持を集めたとも言われますが、日本の中小企業の経営者は何を感じたのでしょうか。シリーズ「われら中小企業」では、トランプ氏への期待を尋ねました。経営者としての手腕や人種差別発言などの評価で、見方がわかれました。

〈Yes〉 木型製造「ミナロ」社長・緑川

賢司さん(49)

 日本が本当の意味での自立を考えるきっかけになる、と思います。「アメリカ・ファースト」と

言われれば、日本はもうアメリカに寄りかかってはいられない。TPP(環太平洋経済連携協定)離脱宣言のように保護主義に傾けば、日本は独自の生き残り策を探らざるをえない。でも、足元から見直すのは悪いことではないと思います。そうでもしないと、この閉塞(へいそく)感を抜け出すヒントは見当たらないからです。

 私が経営する工場は、乗用車やタンカーなどを製造する際の木型づくりを請け負っています。でも、10年先、20年先は見通せません。ほかの町工場も職人たちもどんどん消えています。技術をどう次世代に伝承するか。後継者不足も深刻です。

 中小企業は企業数の99.7%、労働者でいえば7割を占めるのに、私たちの抱える問題の切実さは政治には伝わっていません。だから、余計に思うんです。トランプ氏が既成政治への不満をすくいあげて大統領に上り詰めたように、日本でも、これまで耳を傾けてもらえなかった町工場の声を代弁する政治家が登場しないか、と。前例にとらわれずに突破口を開くには、少々乱暴なアウトサイダーがいいのかもしれません。

 ただ、私たちは新興国から労働者を受け入れたり、あるいは市場を開拓したり、国を開いていかなければ生き残れない。トランプ氏のように国を閉ざすわけにはいきません。方向性は、まったく違いますね。(本社・横浜市金沢区 従業員10人)

 〈Yes〉 トランプ氏は考え方がわかりやすく、言ったことに対する実行力もありそうだ。格差問題は日本でも深刻になっているが、われわれは、単に政治を批判するだけではなく、理論的に発言して地域や企業を豊かに、自立させる努力をすべきだろう。(60代・製造業)

 〈Yes〉 経営者が大統領になる米国と違い、日本では政治家が職業になってしまっていて、国民の要望を吸い上げることより給料をもらえればOKという思考になっている。大企業と政治は密な関係だが、中小企業にとって政治は離れた存在だ。(40代・サービス業)

〈No〉健康サロン「アフロディーテ」社長

・本間初枝さん(67) 会社のあるここ横須賀には、米海軍の基地があり、潤っています。トランプ氏の米軍配置の方針によっては、地元経済にマイナスの影響が出ないか、心配しています。

 実業家のトランプ氏に投票した米国の人たちは、お金持ちになりたいか、自分たちを成功に導いてくれると思ったのでしょう。「会社の倒産を経験し、復活したのだからすごい」と言う人もいますが、もともと大金持ちの家に育ち、本当の苦労をせずにきた人だと思います。

 わたしは子どものころ、貧乏だとバカにされました。エステの仕事を始めましたが難病の化学物質過敏症になり、家や家具、衣類などをすべて処分しました。一度死んだ身。病を克服し、髪の毛に悩む人の役に立ちたいと、自然な材料にこだわったヘアケア用品に命をかけ、全国のサロンにノウハウを提供しています。

 中小企業の経営者には、ゼロからスタートした人がたくさんいます。本当の苦労を知らない政治家に、人に優しい政治など望めるでしょうか。次期大統領への期待から、米国でも日本でも株価が上がったようですが、バブルかもしれません。

 トランプ氏は人種差別、女性蔑視の発言を繰り返してきました。人間より経済を優先する考え方が世界に広がっているように思えて、嫌悪を覚えます。アメリカは、大きな間違いをしたと思います。(本社・神奈川県横須賀市 従業員7人)

 〈No〉 人の憎しみをあおり、理性で「それを言っちゃあ、おしまいよ」と抑えてきたことのフタをとってしまった。本当に恐ろしい。世界的に不寛容な社会が伝染しそうで怖い。平和があってこそ、商売が楽しくできるはずなのに。(50代・製造業)

 〈No〉 支持されそうなことしかできないリーダーが、100年先を考えて意思決定するとは思えない。排他的な思想が強い。相手の弱点を突くことにたけているようなので、日本に対しても貿易や安全保障で詰めてくるだろう。(40代・製造業)

 〈どちらとも言えない〉 トランプ氏の経済政策への期待は、財政出動や減税などで高まっている。一方で、自国優先の貿易政策もとられそうで、日本の自動車業界などへの影響も考えられている。明と暗があり、安全保障の問題もふくめて予測できない。(50代・サービス業)

 〈どちらとも言えない〉 政治経験がなく、数千億円の資産をもつ企業家が政治のリーダーになるけれど、企業経営と政治運営とは価値観が違うところも多いだろう。そこにどう対処し、世界の人たちは新リーダーをどう受け止めるのか。当面は見守りたい。(50代・サービス業)

 〈どちらとも言えない〉 大阪では橋下徹ブームがあった。大阪の中間層の鬱憤(うっぷん)が、彼を知事や市長にさせた。トランプ氏の当選とよく似ていると感じる。大統領に就任しても、短期で終わるのか。すばらしいリーダーに変身するのか。わからない。(50代・製造業)

 〈どちらとも言えない〉 トランプ氏の言動が変わってきているので、不安と期待と両方ある。ただ、いまの時代、経営者が政治の世界に行くことは良いことだと思う。政治家なのにあまりにも実社会経験がなく、経済政策に強い人がほとんどいないためだ。(50代・製造業)

割れた人物評

 トランプ氏の大統領就任はアメリカ分断の象徴と報じられていますが、アンケートでの人物評も割れました。「あらゆる環境変化をポジティブにとらえ、プラス思考に変えていく」といった肯定派と、「思想も哲学もない単なる駆け引き屋にしかみえない」などという否定派と。中小企業の現場からは遠いアメリカの政治環境の変化が自社の経営にどう影響するかは見定められないというものの、アウトサイダーから転じた強いリーダーの言動にじっと目を凝らしている印象を受けました。(諸永裕司)

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 協力いただいた49社(順不同)【北海道】武部建設、岩見沢液化ガス【東北】高田自動車学校、八木澤商店、オクト、蔵ホテル一関、シェルター、八葉水産、東穀、ヴィ・クルー、キクチ【関東】中里スプリング製作所、日本プラスター、日本電鍍工業、永瀬留十郎工場、プレジール、日本橋梁工業、コビーアンドアソシエイツ、吉村、石坂産業、アイシービー、喜久屋、セリエコーポレーション、アトム精密、エイアンドピープル、ミナロ、アフロディーテ、ウェルネスダイニング、一友ビルドテック、ユウマペイント、サンパワー、ジー・ブーン【中部】給材、ネコリパブリック【近畿】ロマンライフ、山田製作所、中野BC、新日本テック、進和建設工業、カワキタ、梅南鋼材、三協製作所、成田塗装、日本グリーンパックス【中国、九州】エブリイ、ヒューマンライフ、お掃除でつくるやさしい未来、プレースホーム、ツシマ

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 編集委員・中島隆も担当しました。

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