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 白衣は着ない。普通の旅行カバンに診療道具を詰め、患者の家のチャイムを鳴らす。

 「『一体何者?』って感じですよね」。いたずらっぽく笑いながら、「でもそれが狙いだから」。往診先には末期がんなど重篤な患者も少なくない。「医者が出入りすることを知られたくない家族の人も多いんです。だから医者に見えないような格好をして……」

 20年前に診療所を開き、黙々と地域医療を続けてきた。一人ひとり生き方が違うのだから、死に方も違っていい。見立てを伝え、本人の希望を聞き、できるだけ最期まで自宅で過ごしてもらう。

 これまでに在宅で看取(みと)った人は600人を超える。驚かされるのは在宅看取りの率で、死を意識しなければならなくなった受け持ち患者の約97%が自宅での死を選んでいる。死の直前に病院から自宅に戻るのではない。発病から死まで、ずっと自宅で過ごすのである。手術や検査が必要な際は大病院に頼むが、手術後は再び自宅へ。20年近くやっていて、ほとんどの病気は在宅で看取ることができると思うようになった。

 活動エリアは半径4キロで、率いるスタッフが50人。診療所を軸に訪問看護ステーション、ケアマネジャー、ホームヘルパーを総動員して患者と家族をバックアップする。患者の人生を丸ごと見るように意識し、家族が介護でダウンしないように目も配る。

 患者の治療や家族への説明に時には1時間以上をかける。当然、多くの家を訪問することはできない。かつては医師3人が180人に往診し、年60人を自宅で看取った。現在は医師2人で100人に往診し、年の看取りは20人ほど。それでも365日休みはない。

 大都会の一隅で、たった100人を診る。小さな試みだが、その小さな試みに人生をかけている。

文・依光隆明 写真・諫山卓弥

地域の中で地域を支える医療機関が必要

 毎木曜の朝、東京・板橋のつくしんぼ会事務室に全職員が集まってくる。在宅患者一人ひとりについて、意見を出し合うのだ。

 「○○さん、ショートステイ(短期入所生活介護)を利用しようとしましたが、ステイ先で検査すると血圧が高くて入所を断られました」

 「あそこは家族の介護負担が大…

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