皇居・宮殿で13日、新年恒例の「歌会始の儀」が開かれた。今年の題は「野」。天皇、皇后両陛下や皇族方は、日々の生活や国内外での活動、静養先における自然や動植物との触れあいを歌に詠んだ。天皇陛下に招かれて歌を詠む召人(めしうど)、選者、入選者10人の歌も披露された。

 宮内庁によると、天皇陛下は静養先の那須御用邸(栃木県)で昆虫・邯鄲(かんたん)の声を聞いた時のことを詠んだ。同御用邸では1997年以降、天皇陛下の意向で、栃木県立博物館などが計10年にわたって動植物相調査を実施。99年9月には、両陛下が夜間に研究者から説明を受けながら邯鄲の声を聞いたという。

 皇后さまはお住まいの皇居・御所での生活を歌にした。都心にもかかわらず、自然豊かな環境であたかも野に住むように過ごしてきたことを感慨深く振り返ったという。

 皇太子さまは2008年5月、山梨県甲州市の笠取山に登り、東京都水道水源林を視察したことを詠んだ。岩から滴り落ちる一滴一滴の水などから、その流れゆく先に思いをはせた。雅子さまは那須御用邸に滞在中、皇太子さま、長女愛子さまと御用地内を散策し、松虫草や女郎花(おみなえし)などの秋の草花を愛子さまに教えた時の喜びを詠んだ。

 秋篠宮家の長女眞子さまは08年4月、上野動物園で馬の贈呈式に出席した時、昔は小型の馬が重いミカンの箱などを運んでいたと聞いて驚いたことなどを歌にした。次女佳子さまは小学生の頃、友人とシロツメクサの花を摘み、冠を編んで遊んだ楽しい思い出を詠んだ。(島康彦、多田晃子)

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 天皇、皇后両陛下や皇族方、選者、入選者らの歌は次の通り。

 〈天皇陛下〉

邯鄲(かんたん)の鳴く音(ね)聞かむと那須の野に集(つど)ひし夜(よる)をなつかしみ思ふ

 〈皇后さま〉

土筆(つくし)摘み野蒜(のびる)を引きてさながらに野にあるごとくここに住み来(こ)し

 〈皇太子さま〉

岩かげにしたたり落つる山の水大河となりて野を流れゆく

 〈皇太子妃雅子さま〉

那須の野を親子三人(みたり)で歩みつつ吾子(あこ)に教(をし)ふる秋の花の名

 〈秋篠宮さま〉

山腹(さんぷく)の野に放たれし野鶏(やけい)らは新たな暮らしを求め飛び行く

 〈秋篠宮妃紀子さま〉

霧の立つ野辺山(のべやま)のあさ高原の野菜畑に人ら勤(いそ)しむ

 〈秋篠宮家長女眞子さま〉

野間馬(のまうま)の小さき姿愛らしく蜜柑(みかん)運びし歴史を思ふ

 〈秋篠宮家次女佳子さま〉

春の野にしろつめ草を摘みながら友と作りし花の冠

 〈常陸宮妃華子さま〉

野を越えて山道のぼり見はるかす那須野ケ原に霞たなびく

◆召人

 〈久保田淳さん〉

葦茂る野に咲きのぼる沢(さは)桔梗(ぎきやう)冴えたる碧(あを)に今年も逢へり

◆選者

 〈篠弘さん〉

書くためにすべての資料揃ふるが慣ひとなりしきまじめ野郎

 〈三枝昂之さん〉

さざなみの関東平野よみがへり水張田(みはりだ)を風わたりゆくなり

 〈永田和宏さん〉

野に折りて挿されし花よ吾亦紅(われもかう)あの頃われの待たれてありき

 〈今野寿美さん〉

月夜野(つきよの)の工房に立ちひとの吹くびーどろはいま炎(ひ)にほかならず

 〈内藤明さん〉

放たれて朝(あした)遥けき野を駆けるふるさと持たぬわが内の馬

◆入選者(年齢順)

 〈岐阜県 政井繁之さん(81)〉

如月(きさらぎ)の日はかげりつつ吹雪く野に山中(さんちゆう)和紙の楮(かうぞ)をさらす

 〈東京都 上田国博さん(81)〉

歩みゆく秋日(あきひ)ゆたけき武蔵野に浅黄斑蝶(あさぎまだら)の旅を見送る

 〈長野県 小松美佐子さん(80)〉

宇宙より帰る人待つ広野には引力といふ地球のちから

 〈千葉県 斎藤和子さん(71)〉

筆先に小さな春をひそませてふつくら画(ゑが)く里の野山を

 〈東京都 平田恭信さん(68)〉

手術野(しゆじゆつや)をおほふ布地は碧(あを)み帯び無菌操作の舞台整ふ

 〈東京都 西出和代さん(64)〉

父が十野菜の名前言へるまで医師はカルテを書く手とめたり

 〈宮城県 角田正雄さん(62)〉

積み上げし瓦礫の丘に草むして一雨ごとに野に還りゆく

 〈新潟県 山本英吏子さん(42)〉

友の手をとりてマニキュア塗る時に越後平野に降る雪静か

 〈東京都 鴨下彩さん(17)〉

野原ならまつすぐ走つてゆけるのに満員電車で見つけた背中

 〈新潟県 杉本陽香里さん(17)〉

夏野菜今しか出せない色がある僕には出せない茄子の紫

■来年の題は「語」

 宮内庁は来年の歌会始の題を「語」とする募集要領を13日付で発表した。「語」の文字が詠み込まれていればよく、「語感」「物語」のような熟語でも「語らふ」のように訓読してもいいという。

 応募は一人一首で未発表のもの。書式は半紙を横長に使い、右半分に題と短歌、左半分に郵便番号・住所・電話番号・氏名(本名、ふりがなつき)・生年月日・性別・職業を毛筆で縦書きする。病気や障害で自筆できない場合は、別紙に代筆の理由と代筆者の住所・氏名を書き添えるか、印字して別紙に理由を書き添える。視覚障害者は点字も可。

 締め切りは9月30日(当日消印有効)。あて先は「〒100・8111 宮内庁」で、封筒に「詠進歌」と書き添える。詳細は宮内庁ホームページに掲載している。