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 公立小中学校の給食を無償で提供する自治体が少なくとも55市町村あり、少しずつ広がっているという記事を昨年12月19日に掲載しました。家計の負担軽減による子育て支援や少子化対策が自治体の狙いのようです。ただ予算は限られます。読者のみなさんから届いたご意見を中心に、給食の役割を考えます。

■教育の一環、国費投入を

●大阪府の弁護士の女性(37) 無償化は学校現場の労力を考えると価値があります。私は教育委員会から委託され、給食費の未納対応に苦慮している公立小中学校から相談を受けています。先生たちは各家庭の状況を知っているだけに、どこまで踏み込むべきか、どういう言葉をかけるべきかまで悩んでいます。無償化によって、本来の教育活動に専念できるようになり、子ども一人ひとりに向き合うことができる効果があります。財源の問題ではなく、教育の一環として給食費は国費でまかなうべきです。

●福岡県の自治体臨時職員の女性(46) 数年前から臨時職員として、ある公立中学校の給食費の集金事務を担当しています。滞納している家庭に手紙を書いたり電話をしたりしますが、滞納する家庭はたいてい決まっています。「来週には払います」などと先延ばしにして、3年間ほぼ払わずに卒業するケースも。いま、学校の滞納額は数十万円にふくれ、食材費不足が心配です。栄養士さんが陰ですごく工夫してくれ、内容を維持してくれているようです。こうした問題をなくすためにも、無償化がもっと広がればいいと思います。

●福島県の公務員の男性(59) 給食センターに勤務しています。給食費の徴収事務は学校にとって煩雑なもの。給食費が無料になれば、徴収事務も給食費の滞納も解消しますし、何より究極の子育て支援になります。国の交付金などで進めてほしい。それにはまず、すべての中学校で完全給食がなされ、平等にならないといけない。子どもたちにとって給食は1週間のうちのたかが5食、されど5食。給食で栄養のバランスをとっている子どももいます。

■まず給食実施率を上げて

●兵庫県の元高校教諭の男性(67) 給食を無償で提供している自治体は、それほど財政が豊かなのでしょうか。他の歳出項目とバランスがとれているのでしょうか。全員無償化はばらまきだと思います。教育的理念が分かりません。保護者の所得により段階的に援助すべきではないでしょうか。ただ、6人に1人の子どもが貧困というなか、給食の役割は大きいと思います。私が育った大阪府内の市では中学校給食がありましたが、私の娘2人が通った兵庫県内の公立中学校には給食はありませんでした。中学校の給食実施率を上げることが急務です。

●兵庫県の契約社員の女性(39) 子どもの昼食代はどこにいても必要なので、無償化すべきだとは思いません。もし自治体にそれだけの財政的な余裕があるのであれば、子ども食堂の開設や学校の和式トイレの洋式化、タブレット端末を導入するなど授業へのICT(情報通信技術)の活用充実などを進めるべきではないでしょうか。

■貧困家庭の栄養を補う役割

 子どもの食生活や栄養摂取と給食の関係について研究した新潟県立大の村山伸子教授に聞きました。

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 2013年に、給食がある東日本の4県6市町村の小学5年生1447人を対象に調査しました。連続4日間(平日2日、休日2日)、食事の記録をつけてもらい、保護者にも質問。年収の回答があった924人の食生活や食品摂取頻度などについて、収入が少ない貧困基準以下の世帯の子ども(158人)と、貧困基準より上の子(766人)に分けて分析しました。基準は厚生労働省の国民生活基礎調査をもとに推計したものです。

 貧困基準以下の子は、そうでない子に比べて朝食を毎日食べない子が多く、特に休日は約3割が食べていませんでした。家庭で野菜を食べる頻度が少なめで、魚や肉の加工品、インスタント麺を食べる頻度は高いという結果でした。

 栄養素の摂取量をみるデータも現在解析中ですが、学校給食がある平日は差が少なく、休日は差が開きました。エネルギーとなる炭水化物、脂質、たんぱく質のうち、収入が低くなるほど炭水化物の摂取量が多くなっていました。逆に収入が増えるほど、動物性たんぱく質やビタミンなど栄養素の摂取が多い傾向です。

 つまり、貧困基準以下の子はラーメンなど主食に偏り、おかずが少ない食事になっているということです。成長期は動物性たんぱく質が必要ですが、主食だけの方が安くおなかを満たすことができ、肉や魚、野菜は主食に比べて費用負担が大きいのです。

 家庭環境による栄養格差を縮める意味からも、学校給食は重要です。栄養を補うことに加え、家庭では口にすることがない様々な食材をみんなで楽しく食べるという食育の役割も持っていると思います。(聞き手・中塚久美子)

■所得別支援はレッテル貼りにつながる

 「給食費未納 子どもの貧困と食生活格差」の著書がある跡見学園女子大学の鳫(がん)咲子准教授(行政学)に話を聞きました。

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 学校給食費は、経済的に困難な家庭が申請すれば、生活保護や就学援助制度から支給されます。給食費というと未納問題が注目されがちですが、生活保護の申請がためらわれたり、就学援助が周知されていなかったり、書類を整えるのが難しかったりと、制度が利用しづらいことも一因ではないでしょうか。また、言われているほど実際は多くありませんが、経済的な問題がないのに給食費を払わない場合は、ネグレクトといった他の問題のシグナルかもしれないと考える必要があります。

 さらに、生活保護や就学援助制度を利用していても、給食のない中学校に通う子どもには給食費分は加算されませんので、昼食の支援が届きません。これは重大な問題です。主食とおかず、牛乳のそろった完全給食のない公立中学校が全国に1割以上あるのです。自分が育った地域以外のことは案外知らないもので、私も給食のない公立中学校がそんなにあると知って驚きました。

 経済的な理由で生じる子どもの食生活の格差は大きく、学校給食にはその格差を縮める機能があると考えています。給食は子どもの食のセーフティーネットであり、給食に費用を惜しむべきではありません。

 最近、人口の少ない町村を中心に給食費の無償化が進んでいます。無償化した自治体の担当者からは「経済的に苦しいのに周囲の目を気にして生活保護や就学援助を受けることをためらっていた家庭に、給食費を督促する必要がなくなってよかった」という話を聞きました。

 韓国では多くの自治体が小中学生の給食を無償にしています。「財閥の子も無料にするのか」という批判もあったそうです。でも、貧しい子どもだけが無料の給食を申し込む方式は、「貧困のレッテル貼り」につながり、子どもの自尊心を傷つけます。全員が参加することでレッテル貼りを避けられるという意義に社会が賛同し、無償化が広がったそうです。

 日本では、家庭が負担している給食費は材料費です。人件費や施設設備費はすでに税金でまかなわれています。材料費まで無償にすれば、その分、税金を割かなくてはなりませんが、子どもの医療費などと考え方は変わりません。将来の心身の健康に直結する子ども時代の食生活は、社会保障だと考え、みんなで費用を負担するという道筋を検討してもいいのではないでしょうか。(聞き手・河合真美江)

■民間支援で健康メニュー 米国

 米国では、給食費を民間が支える動きも始まっています。低所得世帯が多い学校の子どもは全員、公費で一定額まで給食費が無料になります。ただ、限られた食材費では、冷凍ピザやポテトフライ、糖分が多い飲料など、肥満になりやすい「不健康な食事」に偏りがち。健康的なメニューにするための差額を民間の団体や個人が寄付で補うのです。

 非営利団体「TABLE FOR TWO USA」は6校を支援。企業などが「地域の学校を支えたい」と寄付してくれるのが財源です。ある投資銀行では、社員食堂で特定のメニューを注文すると、1食あたり25セントが寄付に充てられます。

 ニューヨーク市の低所得地域にある公設民営一貫校では、健康的なメニューを採り入れるための差額年2万7600ドルの一部を支援でまかなっています。記者が昨年10月に取材で訪れたときは、全粒粉のバンズを使った牛肉ハンバーガーとサラダなど。小学5年のケムエイジア・ネスミスさん(10)は、「トマトやレタスがおいしい。野菜からビタミンをとれる」と話しました。(中塚久美子)

■簡単な問題ではないと痛感

 給食無償化をめぐり、様々なご意見をいただきました。限られた財源で、何を優先するべきか。簡単に答えの出ない問題と痛感しました。私は、一度も給食を食べたことがありません。生まれ育った兵庫県上郡町に学校給食がなかったからです。中学卒業まで、母が毎日、弁当を持たせてくれました。その苦労に感謝しつつも、温かい給食に憧れ続けました。寂しかったのは大学時代です。全国から集まった仲間たちが、飲み会で必ず話題にするのが給食メニュー。「あれがうまかった」「これがまずかった」と盛り上がる姿を横目に、財政の厳しい我が町を恨んだものです。そんな故郷も、ようやく13年10月に幼稚園、小学校で給食を始めました。子どもの心身を支える給食。この勢いで一日も早く、中学校でも完全給食が導入されることを願っています。取材班は、全国の中学校における完全給食の実施状況を調査中です。(小河雅臣)

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