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 ある歯磨き剤をめぐって、福祉とビジネスの両立をめざし、悪戦苦闘している人たちがいます。障害者の自立の助けとなり、事業の採算もとれるようなビジネスモデルはありえるのでしょうか。

■親亡き後、自ら稼ぐには

 横浜市都筑区の田所淳(35)は1年ほど前、初めて「営業マン」になった。扱うのは「オーラルピース」という名の歯磨き剤。同市のベンチャー企業、トライフが4年前に発売した。田所が税込みで1本1080円するこの商品を売ると、仕入れ値との差額、350円ほどが彼に入る。

 生まれつき脳性まひがある田所は、人とスムーズに話せない。移動は電動車いす。決まった働き口はなく、ほぼ24時間ヘルパーの世話がいる。他人に物を売るなど、それまで考えたこともなかった。

 きっかけは一人暮らしだ。女手ひとつで育ててくれた母親が住む実家近くのマンションで生活してきた。だが、つい甘えてしまう。「親も60代。いつ病気になってもおかしくない」。親の助けを借りず自立しよう。不動産業者に断られ続け、ようやく今の部屋を借りた。

 経済的には楽でない。収入は月約8万円の障害者年金と3カ月ごとに重度障害者に支給される手当で、月10万円強。親から多少の仕送りはあるが、6万4千円の家賃など生活費を引くと手元にそうは残らない。

 「応援するから売ってみないか」。田所に勧めたのは、NPO法人「よこはま成年後見つばさ」の理事長、須田幸隆(72)だ。はじめは恐るおそる、フェイスブックでPRした。今は知人らを中心に月に10本ほど売れる。まだ月3500円足らずの収入だが、「どうすれば買ってもらえるか考えるのは楽しい」。

 トライフが九州大学などと開発したオーラルピースは、田所のような障害者たちの収入を増やすために生まれた。口に含んだら吐き出すのが歯磨き剤の常識。だが天然由来の成分のみでできているオーラルピースは「のみ込んでも安心」が売りだ。それでいて殺菌力もある。うがいや歯磨きが難しい高齢者や重い障害のある人に特に向いている。

 ユニークなこの商品を、障害者たちが働く就労支援施設や障害者本人が「代理店」となり、病院や介護施設に売る。1本あたり200~350円が障害者の収入になる。発売から3年余りで全国約300の就労施設が代理店になった。商品の製造や発送も東京や新潟の就労施設に委託。トライフの直近の売り上げは年6500万円、発売初年度の約3倍になった。

 働いても月に1万円程度の賃金(工賃)しかもらえない障害者は大勢いる。トライフの社長、手島大輔(46)は16年前に障害のある長男を授かり、こうした現実を知った。

 商社などで働いた後、ベンチャー企業で化粧品ブランド立ち上げに尽力し、会社の上場にも貢献した。2006年に独立してトライフ設立後、障害者の仕事づくりにもかかわった。

 だが結果が出ない。自分がいる間はいい。親が亡くなったら、息子のような障害者たちは暮らしていけるのか。手島は5年前、衝撃的な新聞記事を目にした。

 手島の自宅からほど近い民家で…

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