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 「女子力」という言葉が、メディアにのって広がり、多様な意味をもつようになったことは否定できません。朝日新聞デジタルのアンケートには、その役割への批判の声も寄せられています。メディア側は、この言葉にどんな意味を見いだし、向き合ってきたのでしょうか。言葉と市場の関係について調べる研究者の見方とともに紹介します。

■輝く女性・男性の素顔にも「女子力」

 テレビのバラエティーには「女子力」がちりばめられています。例えば日本テレビ系の「しゃべくり007」(月曜午後10時)では昨年10月、レスリングの吉田沙保里選手と卓球の福原愛選手を招き「女子力対決」。ツイッター上の反応は「女子力見習おう」「メダリスト2人も呼んで女子力の高さなんて比較してんじゃねー」と様々でした。

 テレビの作り手は「女子力」をどう捉えているのでしょう。民放ローカル局の東京メトロポリタンテレビジョン(MXテレビ)は2015年から「菊地亜美の女子力向上委員会」(第1土曜午後8時)を放送中。タレントの菊地亜美さん(26)が、スイーツなどが好きな元サッカー日本代表前園真聖さん(43)と都内の和菓子店やメイドカフェ、ヨガ教室などを散策。その道のプロの所作やこだわりを学びます。

 番組では「女子力」を「輝いた生き方をしている女子が持つ力」と幅広く捉えます。ジャパンエフエムネットワークの河端英俊プロデューサー(40)は「世間で言われているような気配りだけでなく、『こんな女子力もありだよね』と、出演者と一緒に楽しく見つけてもらえたら」と話します。

 日本テレビ系の「今夜くらべてみました」(火曜午後11時59分)は、主に女性ゲスト3人の趣味や経歴などの共通点を深掘りします。でも、「女子力」という言葉を番組内で使うのは男性ゲストの時が多い。南波昌人・統括プロデューサー(46)は「美容法やファッションなど、昭和ならこだわりとして表に出なかった男性の素顔が見えた時です」。

 収録前のアンケートで少なくとも2年ほど前から男性ゲストに「自分の生活で女子力が高いなと思うことは」と聞くことが多いそうです。「ただ『凝っているもの』と聞くよりも、紫外線対策で日傘を差しているとかギャップを感じる面白い回答が出てくる。男性も女性も『へえ』と興味がわくのでは。おじさんの私もそうした男性の趣向が気になる」(滝沢卓)

■「女子力」は努力で勝ち取るイメージ?

 月刊誌「AneCan」(小学館、誌面休刊中)は2011年に特集「女子力って、何だ!?」を組みました。今はウェブで展開する「AneCan.TV」の佐藤明美編集長(46)は「女子力をまじめに考えてきた」といいます。

 佐藤さんが考える「女子力が高い」とは、「女性としての自分を最大限活用し、楽しんでいる」こと。雑誌制作時は「男性に負けないということではなく、柔らかさや優しさを上手に生かしながら、おしゃれやお化粧も楽しみ、幸せな時間を自分で作っていける能力を持って欲しいな」と思っていたそうです。

 ただ、30歳前後の読者にじっくり話を聞くと、「女子力をつけたい」と思っているわけではないと感じたそうです。「この世代は恋愛において男女に上下関係はないと考えていて、女子力で認めてもらおうとは思っていない。『女子力よりは人間力』と思っているのでは」

 小中学生向けファッション誌「ニコラ」(新潮社)ではこの半年ほどでよく使われるようになりました。読者投稿の創作物語にも「女子力を上げたい」といった表現が見受けられます。眞部菊実編集長(41)は「中学生になると周りの目を意識するようになる。男子だけでなく女子からもモテる『好感度が高い女の子』として『女子力』という言葉が使われるようになってきたのでは」と話します。

 「女子力は『かわいい』よりも努力で勝ち取るもの、というイメージなのかも」と眞部さん。読者と同世代のモデルも、努力する姿が共感を集めるといい、読者層は前向きな言葉と捉えている、と感じるそうです。(山本奈朱香)

■メディア、得意分野に合わせ利用

 「女子力」はなぜ、広まったのでしょう。言葉を通じた市場創造について研究している松井剛・一橋大教授(消費者行動論)に聞きました。

     ◇

 「女子力」という言葉の広がりの起点は、メディアです。その後、企業が商品やサービスをプロモーションする際に使われるようになるのと、一般社会での定着が同時に起こったとみています。

 「『女子力』つけて、モテる私」。2002年に10~20代向けの女性誌「non-no」で、この言葉が使われました。雑誌記事タイトルから「女子力」というキーワードを含む記事数を調べてみたところ、12年まで631件。特筆すべきは、この言葉がはやり出すと、自誌のテイストや得意分野に関連づけて利用する現象が見られたことです。

 ファッション誌における「女子力」は外見に関わるものが多い。例えば40代女性向けファッション誌「STORY」12年7月号には、「高女子力」のワンピースの紹介文として、「適度な肌見せで女らしい胸元が演出できます」。一方、キャリア誌やライフスタイル情報誌などでは、礼儀作法やマナーといった内面にかかわるものなど、多義的に使われました。「OZ plus」11年7月号では、「35歳までに身につけたい女子力」として「仕事力」「コミュニケーション力」「時間力」「人脈力」「結婚力」をあげています。流行語を自分たちの得意分野に引きつけて利用しようとする傾向は、雑誌に限らず、テレビやネットメディア、新聞にも言えることでしょう。

 そして、女子力を高める、化粧品やエステなどのモノやサービス。言葉が注目されることで関連する需要が生み出され、企業がマーケティングを展開するようになりました。

 気をつけなければならないのは、流行語は無条件に受け入れられるわけではなく、嫌悪感を示す人が必ずいるということ。だから企業広告などでも「こうあるべきだ」という作り手の押しつけ感が見えると、「余計なお世話」と強烈な反発を招き、炎上することがあるのです。

 一般社会に定着したのは、「女子力」が映し出すリアリティーに人々が共感したから。女性の就業率の高まりや晩婚化、年齢を重ねても若くありたい女性の増加といった現実なくして、流行、定着はありえなかったでしょう。(聞き手・杉山麻里子)

■朝日新聞、女性向け商品やスポーツの記事で

 朝日新聞には、2010年ごろから記事の見出しに「女子力」が目立ち始めました。美容成分を含む食品、おしゃれな文房具など、女性を意識した商品の記事につくものもあれば、本格的なカメラが女性に人気、好成績を残す女性スポーツ選手の記事などに、「女性の力」という意味で使うなど様々です。

 「声」欄では15年に「『女子力』って何でしょうか? よく分かりません。上品で、優しくて、困った時に便利な小道具を持っていて、オシャレを気に掛けている……そんな人が『女子力が高い』と言われるようです」という書きだしの中学生の投稿を掲載。後日、「見た目や上辺だけがかわいくて女の子っぽくても、内面が親切でなかったら、誰もその人のことを好きにならない」「明確な定義はありません。女性が女性であることに誇りをもち、どんな自分をも肯定して生きることができる力となればよいのではないでしょうか」などといった反響も掲載しました。

■「男性受けのよさが透ける」

 アンケートに寄せられた、メディアについて書かれた声の一部です。

●「男性やメディアが『女子力』という場合、『嫁力』としての家事能力(気配り、男を立てる)を指すが、当初女性間では『忙しくてもおしゃれや食生活に手を抜かない』という意味で使われていたと思う。メディアが元の意味をねじ曲げて広めるのはよくあることだが、この国のジェンダー感をよく表すねじ曲げ方だと思う」(千葉県・40代女性)

●「メディアで取り上げられる女子力は、『男性受けがいいように、身だしなみに気をつけて家事をこなすこと』というように思われる。そして女子力のない女性を笑いものにしていることもしばしば。私にはそのような女子力は無い。それに魅力を感じないからだ。その代わりに、内面を磨き自立するための女子力をつける努力をしている。その人によって女子力の考え方は様々なのに、メディアでの女子力の取り上げ方は人間に一様の価値観を押し付けているようで、とても嫌悪を覚える」(新潟県・10代女性)

●「CMなどマスコミで使われる女子力は女性性を強調したものとして使われることも多く、腹立たしく思うことがある」(静岡県・60代女性)

●「二十数年前、雑誌のキャッチフレーズは『カッコイイ女になる』『ハンサムな女』でした。女性用転職情報誌が、『職業選択の自由あははん』というCMで当たりました。今でいう女子力をやたら推すものはありませんでした。この女子力という言葉は、女性がそこそこ力を持ってきて(それでも男性よりは不利)、それをおそれた(収入面でも負けたり)男性が『そんなんじゃ、男受けしないよー、結婚できないよー、女の子はかわいくないと』という呪いを浸透させるためにメディアを使ってはやらせた言葉だと思っています」(東京都・40代女性)

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