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 14日はバレンタインデー。工夫を凝らした商品が百貨店などの店頭に並ぶなか、ちょっと微妙な商品をスーパーやコンビニで見かけた。チョコレート味をうたう甘そうなカップ焼きそばだ。「一平ちゃん夜店の焼そば チョコソース」を先月発売した明星食品の担当者に話を聞くと、商品にかけた思いや狙いを率直に語ってくれた。

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 手軽で小腹を満たしてくれるカップ焼きそばは、記者(39)も学生時代の部活動帰りなどに食べ慣れた商品だ。ソース味なら久しぶりに食べたくもなるが、チョコ味と言われると戸惑う。でも、取材に行くのであれば、一度経験しておかねばなるまい。

 ココアパウダーの練り込まれた麺はかなり茶色め。「かやく」の袋の中身は、キャベツでも肉でもなく、「謎チョコキューブ」と名付けられた四角く茶色い物体。カップ焼きそばにつきもののソースのほかに、風味を増すためかチョコソースも付いている。550mlの熱湯を加え、3分待ってお湯を切り、包装に書かれた手順通りにソースや「かやく」を慎重に入れていく。

 焦げ茶一色でふんわりとシナモンの香りが漂う焼きそばに仕上がった。味は、ひたすら甘い。「カップ焼きそばは、ソース味」との先入観があるからか、味とのギャップにちょっと頭を抱える。試食した同僚の男性記者(42)は、「『あり』か『なし』かと言われれば、『なし』」。20代の女性記者は「海外旅行に行って現地で『こういうものだ』と出されれば、『あり』かもしれない」。なるほど、確かにそうかもしれない。いずれにせよ、従来のカップ焼きそばとは別の食べ物だ。

 この女性記者の感想は、明星食品の狙い通りだったようだ。「まったく経験したことのない味わいを狙った。この味を知る人が多くなれば、いずれ『甘いカップ焼きそば』が世の中に定着する日が来る可能性さえある」。同社で商品開発を担当したマーケティング部の松川賢一さん(41)は、そう力説する。

 同社は昨年のバレンタイン商戦期間にも、チョコ味の「一平ちゃん」を販売した。チョコをコーティングしたポテトチップスや柿の種があることに着想を得た。初代の商品は、ウスターソースをベースにチョコをまぶしたような甘辛い味。話題性もあってスーパーなどからの引き合いが多く、当初計画の3倍を生産するヒット商品となった。食べた人の感想を調べたところ、「おいしい」「まずい」「どちらでもない」がほぼ3分の1ずつだったそうだ。

 ただ、ベースの味がウスターソースのため、従来のソース焼きそばの延長線上にあったことは否めない。「2代目」の商品化に当たり、これまでになかった味をさらに追求すべく、思いっきり甘さを強調した「スイーツ系」に振ることにした。

 麺は専用で、「スイーツには不要だ」(松川さん)と、熱湯で麺を戻すために必要な塩分や、味わいを増すうまみ成分をできるだけ取り除き、糖分に置き換えた。ベースのソースは、ウスターソースから、ほのかな塩味に。甘さを強調しながらも、食べた後のさっぱり感を出すためだという。

 商品化の過程では、「社内をどう説得するかに苦労した」と松川さんは振り返る。開発部門に商品のコンセプトを説明しても、「本当に売れるの?」「おいしいの?」と冷たい反応。何とか口説き落として試作品をつくっても、最後の難関には経営陣の試食がある。

 初代をしのぐ驚きとユニークさを求める経営陣を説得する「切り札」が、「謎チョコキューブ」だった。最後にふりかけるキューブは、砂糖などを寒天で固めたもの。見た目は生チョコのようだが、湯気でちょっとふやけてもサクサクした食感。不思議なキューブでアクセントをつけることで試食を乗り切った。

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 食品メーカーが、自社の主力の商品ブランドで、レギュラー商品とは異なるちょっと変わった味の期間限定品を売り出すケースは多い。期間限定品で話題をつくり、消費者にレギュラー商品を思い出してもらう狙いだ。1995年に販売を始めた「一平ちゃん」も、1~2カ月に1回のペースで季節限定品を出している。この1年でも、「梅かつお味」や「蒲焼のたれ味」、「カラムーチョ味」などを発売。昨年12月のクリスマスの時期に販売した「ショートケーキ味」は、甘酸っぱさを前面に出してネット上でも話題となった。

 「チョコ味」も、思いっきり甘くしたことで、「スイーツ好き」の層にも興味を持たれ、新たなユーザー開拓に一役買っているという。「初代は『まるでスイーツ』、今年のは『もはやスイーツ』」と、松川さんが違いを語る「2代目」も売れ行きは好調。一部地域では品薄になっているという。

 「一平ちゃん」に対抗するように、「ペヤング」を展開するまるか食品も、「ペヤング チョコレートやきそば ギリ」を1月16日に発売。ネット上の一部ではカップ焼きそばの「スイーツ化」が話題となっている。

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 「来年のバレンタイン商戦でも、チョコ味を出すのですか」と最後に松川さんに聞いてみた。「分かりません。ただ、甘い焼きそばの流れは途絶えさせたくない。1年に1~2回は(スイーツ系を)出して行きたい」。はっきりとは明かしてくれなかったが、いろいろ構想は温めているようだ。「話題性があると分かった以上、あとは(商品を企画する)自分との戦い。産みの苦しみです」

 微妙な味に困惑しつつも、「普通の『一平ちゃん』ってどんな味だったろう」と考えた記者は、まんまと明星食品の戦略に乗せられつつある、ということだろうか。松川さんの思惑通り、甘いカップ焼きそばは世の中に定着するだろうか。

【商品概要1】

●商品名:「一平ちゃん夜店の焼そば チョコソース」

●発売日:2017年1月9日

●希望小売価格:税抜き180円

●内容量:108g

【商品概要2】

●商品名:「ペヤング チョコレートやきそば ギリ」

●発売日:2017年1月16日

●希望小売価格:税抜き185円

●内容量:107g(久保智)