[PR]

■核心の中国 不協和音:上

 拍手はしばらく、鳴りやまなかったという。

 昨年11月10日、北京市西部にある中国財務省の講堂で開かれた楼継偉(ロウチーウェイ)財務相の退任セレモニー。堅苦しい雰囲気が続く中国の役所の式典で、社交辞令ではなく、出席者が時間を忘れて拍手をするのは珍しい。

 改革派で、名物閣僚といわれた楼氏の退任は、想定よりも早かった。11月末には京都を訪れ、麻生太郎財務相と対談することまで内定しており、「寝耳に水」(外交筋)の交代劇だった。拍手は、楼氏を惜しむ気持ちだけでなく、「(出席した)幹部にだって覚悟がある」と同省関係者が言うように、無言の抗議の意もあったのかもしれない。

 楼氏は、朱鎔基元首相が国有企業改革などで剛腕を振るった時代、次官級で改革を進めた「チルドレン」の一人。中央銀行である中国人民銀行総裁の周小川氏らと並び称される。財務次官を9年も務め、中央での経験は習近平(シーチンピン)国家主席や李克強(リーコーチアン)首相をしのぐ。2013年3月の財務相への起用は、朱鎔基時代のような経済改革を進める決意を習指導部が示した、と受け止められた。

 15年6月、北京の釣魚台国賓館で開かれた日中財務対話。事情に詳しい日中関係筋によると、麻生財務相がたばこを吸いに建物の外へ出たら、ホスト役の楼氏がそばにやってきた。

 「来年は、構造改革でいこうと思っている」

 楼氏は、白い煙を吐き出しながらこう言った。中国が初めて主催する主要20カ国・地域(G20)会合で、楼氏は財務相・中央銀行総裁会議の議長になる。構造改革をテーマにするとの決意だった。同時に国内でも改革を進める強い意志を示したのだ。2人の思いは一致し、その夜はマオタイ酒で親交を温めた。

 その言葉の通り、楼氏は国内では地方政府が不透明な手法で借金をするのをやめさせるなど、改革に腕をふるった。習氏が唱えたアジアインフラ投資銀行(AIIB)も、「実動部隊」として設立にこぎ着けた。

 「中国は五分五分の割合で『中所得のわな』に陥る」といった率直な物言いが、これまでの中国の閣僚とは違ったスケール感を示し、国外からも好意をもって受け止められた。

 ただ、富裕層に重く課税する不動産税など抵抗の大きい改革は進まなかった。「(労働者を簡単に解雇できない)硬直した雇用制度を柔軟にすべき」「農産物への補助金が手厚すぎる」などと、組織をまたいだ改革にまで踏み込み、既得権益層から反発も買った。

 ただでさえ経済成長が鈍っている中国。さらなる景気の悪化は社会不安を生み、体制が揺らぎかねない。習指導部は、経済を失速させかねない積極的な改革路線は、「リスク」と意識するようになっていた。

 長い目で見れば、経済の構造改革が必要なのは誰の目にも明らかだ。だが、最高指導部人事がある今秋の党大会を控え、権力闘争でミスが許されない習氏。現体制が選んだ結論は、改革を貫く楼氏を支えるのではなく、名物閣僚の退場だった。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員限定記事こちらは有料会員限定記事です。有料会員になると続きをお読みいただけます。

有料会員に登録すると全ての記事が読み放題です。

初月無料につき月初のお申し込みがお得

980円で月300本まで読めるシンプルコースはこちら

こんなニュースも