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 3年前に比べて、くらしは良くなったと感じますか? シリーズ「われら中小企業」では春闘の季節にあわせ、経営者49人に尋ねました。安倍政権は賃上げの実現を唱え、大企業では昨年まで、ベースアップなどの動きが続いてきました。もちろん、賃金だけではありません。従業員がやりがいを感じているかどうかや家族とのだんらんなど、どんなところで「くらしの良さ」を実感しているのでしょうか。

〈Yes〉 住宅メーカー「プレースホーム」社長・山崎清二さん(57)

 注文住宅を建てています。売上高は3年間で約3割増え、従業員の基本給は3年連続で上げました。金融緩和で、いまは低金利だからと住宅購入に踏みきる人が増えた面もありました。社員のくらしは、少しは良くなっていると感じています。

 でも、金銭的な面だけで判断しているのではありません。くらしが良くなるとは、社会に自分の居場所があり安心できることだと考えます。大切なのは、働く誇り。お客さまに自信を持って自社のサービスをお薦めでき、褒めていただけて、働く背中を自分の子に堂々と見せられる。そんな環境づくりを進めています。

 たとえば一般の住宅メーカーと違い、我が社は大型連休は休みます。火曜日は午後6時、他の日も午後8時には退社。土日でも交代で休みます。社員がお客さまと同じ目線で生活していないと、本当に満足していただける家はつくれないからです。

 一棟一棟を丁寧に作り込む姿勢を貫き、積み重ねてきた結果、満足度が高まって紹介や口コミが増え、非効率な営業は不要になりました。働く時間が短くなり、業績が向上した分は給与に還元できています。

 くらしを良くするには、国や景気に文句を言っても始まらない。働き手も経営者も、自分にできることをやるしかないのです。特に社長の責任は重い。めざす方向が合っていないと、頑張ったところでお客さまの満足にはつながらず、社員満足を生む好循環になりませんから。(本社・佐賀県神埼〈かんざき〉市、社員約45人)

 〈Yes〉 「くらしが良くなる」とは、自分が一生懸命に取り組めるものと出会えること、だと考えている。従業員が、仕事を通じて一生懸命なものに出会ってもらえるよう、経営者として、今後もフルパワーで働くつもりだ。(40代・サービス業)

 〈Yes〉 社内で落ちこぼれをつくらず、従業員同士が支え合い、みんなが幸福になることをめざしてきた。政府は、党利党略で大企業のお偉いさんの声を聞くのではなく、中小企業の従業員の気持ちを、地道に誠実に、細かく聞く姿勢が必要だ。(60代・サービス業)

 〈Yes〉 会社の業務を通じて、環境問題の解決や災害の防止、地方活性化に役立つ。お客さまが質の高い生活を楽しんでくれている。そんな「社会に貢献している」という実感や達成感が、従業員のくらしの充実につながっているのではないか。(60代・製造業)

 〈どちらとも言えない〉 残業の増加で従業員の収入が少し増えたぐらいで、変化はあまりない。私の生活も良くならず、このままだと後継者がますますいなくなる。普通に仕事やお金の心配がない状況をつくるため、富を持つ人は国内に投資してほしい。(50代・製造業)

 〈どちらとも言えない〉 リーマン・ショックの影響をひきずっていた3年前に比べると、社員の年収は上がった。けれど、生き残るために新規の仕事を開拓してきたため長時間残業が増えた。家族だんらんの時間がないのは豊かな生活ではないことは、わかっているが。(50代・製造業)

〈No〉 設備設計・製作「アトム精密」社長・一瀬康剛さん(47)

 2年前も昨年も、我が社では賃上げができませんでした。半導体や自動車、食品などの工場でつかう産業機械の設計、製作をする会社で、従業員のみんなには、辛抱してもらっています。

 大企業が賃上げをしていることはだれもがニュースで知っていますから、このままでは従業員のモチベーションが下がって会社が崩壊する、と思いました。昨年、微々たる額ですが、賞与は出しました。

 暮らし向きが悪くなった、などと、直接従業員の口から聞くことはありません。でも、やっぱり、従業員の幸せの軸は、賃上げです。この春こそは何としても、たとえわずかでも賃上げをしたいですね。

 中小企業には、政府が企業に賃上げをうながす「官製春闘」のしわ寄せが来ていると感じます。賃上げをした大企業は人件費が増えるので、その分は町工場など下請けへのコストダウンの要求を厳しくしている。交渉の結果、10%ダウンを5%ダウンに抑えることができても、やっぱり価格は下がる。そして、仕事の量は増えているので、従業員は残業をして忙しさは増すばかりです。申し訳なさでいっぱいです。

 ぼく自身の役員報酬は、かなり削ってきました。10年前まで会社員でしたが、そのときの給料のほうが高い。でも、ぼくの幸せは、お金だけではありません。経営者仲間と1本100円の焼き鳥を食って、酒を飲む。お金だけでははかれない、幸せですね。(本社・東京都八王子市、従業員約50人)

 〈No〉 物価上昇に売り上げが追いつかないのに、くらしが良くなるわけがない。投資や財テクをしている者はトランプ効果もあって潤っているようだが、まじめに価値のあることをしている企業、人にとっては、決して良い状況ではない。(40代・サービス業)

 〈No〉 奨学金返済をかかえて入社する人が半数近くにのぼり、親世代の経済的格差の影響が、若い働き手に出ている。「賃金が上がらないのでは」「子どもの教育費がかかるのでは」といった不安要素が少なくならなければ。(40代・サービス業)

 〈No〉 少しでも社員の所得を上げたいが、少子化の波をかぶり、値下げ競争も激しく、売り上げをアップさせたくてもできない状況だ。政府に頼ることなく頑張っているが、政府が目を向けるべきなのは、大企業ではなく、中小零細企業だ。(60代・サービス業)

好循環は「急がば回れ」から

 多くの経営者の声に共通していたのは、くらしをあずかる社員の収入をときには身を削ってでも増やそうとしている責任感と、大企業の陰で頑張る中小企業にもっと目を向けてほしいという切実な思いでした。そして、「くらしが良くなる」とは目先の収入が増えることだけではない、という点も。一時的な景気テコ入れより、希望を持って働き、安心して暮らせる社会にする政策を進めてこそ、本当に前向きな生活や消費につながると――。好循環は、「急がば回れ」から始まるのかもしれません。(吉川啓一郎)

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 〈協力いただいた49社(順不同)〉【北海道】武部建設、岩見沢液化ガス【東北】高田自動車学校、八木澤商店、オクト、蔵ホテル一関、シェルター、八葉水産、東穀、ヴィ・クルー、キクチ【関東】中里スプリング製作所、日本プラスター、日本電鍍工業、永瀬留十郎工場、プレジール、日本橋梁工業、コビーアンドアソシエイツ、吉村、石坂産業、アイシービー、喜久屋、セリエコーポレーション、アトム精密、エイアンドピープル、ミナロ、アフロディーテ、ウェルネスダイニング、一友ビルドテック、ユウマペイント、サンパワー、ジー・ブーン【中部】給材、ネコリパブリック【近畿】ロマンライフ、山田製作所、中野BC、新日本テック、進和建設工業、カワキタ、梅南鋼材、三協製作所、成田塗装、日本グリーンパックス【中国、九州】エブリイ、ヒューマンライフ、お掃除でつくるやさしい未来、プレースホーム、ツシマ

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◆編集委員・中島隆と吉川が担当しました。

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