「祭りの場」をはじめ、原爆文学の傑作を世に送り出し、「8月9日の語り部」とも呼ばれた作家の林京子(はやし・きょうこ、本名宮崎京子〈みやざき・きょうこ〉)さんが2月19日、死去した。86歳だった。葬儀は近親者で行った。

 30年、長崎市生まれ。父親の赴任で上海で育った。45年に母親らと長崎に引き揚げ、14歳だった8月9日、学徒動員で働いていた三菱兵器製作所で被爆。この被爆体験と、上海で支配者側にいたという自覚が、創作の原点となった。

 75年、原爆投下後の長崎の人々の経験と苦悩を、女子学生を主人公に描いた「祭りの場」を発表。加害者側の視点も冷静に盛り込んだこの作品で芥川賞を受賞した。著書はほかに「上海」(女流文学賞)、「三界の家」(川端康成文学賞)、「やすらかに今はねむり給(たま)え」(谷崎潤一郎賞)など。

 原子力と核の問題を粘り強く追い続けた。99年、世界最初の核実験が行われた米国ニューメキシコ州の「トリニティ・サイト」を訪れ、人類の過ちと自然への影響を痛感。その体験や、老いによる死も視野に入れた「長い時間をかけた人間の経験」で00年、野間文芸賞を受賞。04年には、「九条の会」の呼びかけに賛同、活動にも参加した。05年に全集(全8巻)が刊行され、05年度の朝日賞を受賞した。