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 村上春樹さんの新作『騎士団長殺し』(2巻、新潮社)が発売された。複数巻に及ぶ長編としては、大ヒットした『1Q84』(BOOK1~3)以来7年ぶりの大作を、どう受け止めたのか。

■「私」が再生する物語

 最後に分かるのは、山荘の周辺に起きた奇妙な出来事から現在まで、すでに十年近くが経っていること。最初に明かされるのは、語っている主人公・肖像画家である「私」がストーリーが回り始める前から別れていた妻とは復縁し、小説の舞台から遠く離れた場所で過去のことを思い出しているらしい、ということである。

 夏目漱石の『こころ』の語り手「私」がしばしば「先生の話が益(ますます)解らなくなった」等(など)とふり返るように、春樹の「私」も経験豊かで謎めいた年上の免色渉(めんしきわたる)という相手から言われることを度々「よくわからなかった」、という具合である。春樹の「私」は、生来人前で言うべきことを黙って言わない、どちらかと言えば内気なタイプ。にもかかわらず、千ページを超える大作の一部始終をコンパスで製図したごとくきっちりと語りきっている。記憶に揺らぎはなく、目に見えて耳に聞こえるすべての現実、人によっては見えないけれど実存するディープな非現実も、果てしなくフラットに詳述されていく。

 単調で穏やかそうに見える山中…

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