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 ヤシの街路樹が3キロにわたってまっすぐ続いた先に工場のゲートはあった。気温は30度ほど。構内ではヒジャブ姿の女性従業員が足早に歩く。

 インドネシアの首都、ジャカルタから東へ約35キロ。西ジャワ州の郊外に開かれた工業団地に電子機器大手オムロンの工場がある。設立は1992年。家電などに使われる電子部品から、工場向けの産業機械まで幅広く手がけ、約2千人超が働くアジアの拠点工場だ。

 試作・開発棟を訪ねるとラジャニ・シレガルさん(28)が松葉杖を器用に使いながら産業機器の配線をこなしていた。16歳の時にサッカーでけがをし、のちに右足の下半分を失った。職業訓練校に通った後、2011年にオムロンに入った。「健常者と同じ待遇なのはこの工場しかなかった。インドネシアではとても珍しいのです」

 今は35人の肢体や聴覚の障害者が働く。人事担当のナナ・スディアナさん(49)は「障害者の働きが他の社員に良い刺激になっている。知的障害者や視覚障害者の受け入れはこれからの課題です」。1999年から障害者雇用を始め、工場のイラワン・サントソ社長(50)が取り組みを強めた。2007年に社長に就き、10年に国立障害者職業リハビリテーションセンターと提携。研修生を受け入れ、卒業生を雇用した。

 オムロン工場の障害者雇用率は1・5%。法律では1%の雇用が求められているが工業団地の他の工場ではほぼゼロだった。他の工場にも雇用を求める活動を進め、インドネシア政府から表彰を受けた。「政府の要請もあるが、オムロンの企業理念の実践のために重要な取り組みなのです」。サントソ社長はそう話す。

 企業理念の核は1959年に創業者・立石一真(かずま)氏が制定した「社憲」だ。われわれの働きで われわれの生活を向上し よりよい社会をつくりましょう――。一真氏は「最もよくひとを幸福にするひとが最もよく幸福になる」との哲学を貫いたカリスマ経営者だ。72年に障害者を中心とした日本初の電子部品工場「オムロン太陽」(大分県別府市)も設立した。

 サントソ社長は「精神的な標語ではなく、論理的な考えだと気づきました」。社会に貢献すれば社会に助けられる。工場で働く障害者たちはいつか故郷に帰る。いい会社だったと話してくれれば評判になり、いずれ優秀な人材がオムロンに集まってくる。こう考えるようになった。

 「会社を3~4年経営するのは易しい。でも、ずっと続けるにはそんな積み重ねが重要です」。工場では、始業前に従業員たちが社憲を唱和する。

オムロン世界賞とは

 オムロンには、企業理念を日々の仕事に結びつけるための大きな仕掛けがある。2012年に始めた「TOGA(The Omron Global Awards=オムロン世界賞)」だ。

 世界に広がる社員がチームを作り、企業理念に基づくテーマでの仕事を宣言。そのプロセスや成果を1年がかりで競う。役員も加わる地域ごとの選考を経て、優秀なチームが5月10日の創業記念日に表彰される。

 昨年5月に選ばれたのは「労災を減らす」ことをめざして工場の安全対策ビジネスを進めた韓国のチームや、「偽造医薬品による事故をなくす」と検査システムを開発したドイツのチームなど13組。社会課題を解決する新ビジネスとしても期待されている。

 今も5月に向けた選考が進んでいる。

 「多品種少量生産ができる機械を開発。趣味のラジコン知識も生かした」「電子部品の小型化に挑戦し、取引先の協力を得て成功した」。3日、京都市の本社であった予選会。16チームが取り組みを発表した。会場は社員なら出入り自由で、300人ほどが時間を見つけては聞きに来た。国内30拠点に中継もされた。

 今回は、世界中の延べ4万6千人から5千のテーマが寄せられた。社員数の3万8千人を超える規模。初回の2万人、2500テーマから2倍になった。「理念に基づいた実践的な仕事を全社で共有してほしい」とTOGAの事務局を務める有沢暢敏さん(48)は説明する。

 TOGAを始めたのは、11年に就任した山田義仁社長(55)。「大企業でも社会に必要とされなくなればつぶれる時代。オムロンも理念を忘れれば、淘汰(とうた)される。逆に、みんなが理念を意識した仕事をすれば、どんな波も乗り越えられる」。社会の課題をいち早く捉え、解決策を売り出せればビジネスにつながる。そんな取り組みが次々に生まれるような挑戦を社員に促しているのだ。

 きっかけは00年代前半、IT…

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