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 中国・宋代を舞台にした北方謙三さん(69)の大河小説「大水滸伝」シリーズ(全51巻と読本)が、累計1千万部を超えた。1巻あたり20万部になる計算だ。梁山泊の豪傑たちの物語はなぜこれほど魅力的なのか。

 シリーズは『水滸伝』(19巻)、『楊令伝』(15巻)、『岳飛伝』(17巻)からなる。梁山泊に集い、国の革新を志した人間らの生き様を昨年まで、17年にわたって書き継いだ。

 原稿用紙2万5500枚分にもなる物語だが、ファンが集う「梁山泊の会」には老若男女がやってくる。集英社の担当編集者、鯉沼広行さんは「登場人物は端役でも血が通っていて、書かれていないところまで想像できてしまう」と話す。

 魅力の一つは豪傑たちの「弱さ」だ。恋愛下手だったり、トラウマを抱えていたり。たとえば仕事に失敗して墓守を命じられ、反省する男の姿に、つい我が身を重ねてしまう。そこからはい上がる姿を応援しながら、彼の家族や幼少期を勝手に想像してしまう。

 かつて北方さんは取材に、「登場人物はすべて『あるときの自分』なんです」と語っていた。作家本人が弱さも惨めさもかみしめて生きているからこそ、この物語があるのではないか。1千万部を超えても、北方さんは「これからも“作家としての完成”を拒絶し続け、書き続けていきたい」とコメントしている。4月からは、後の時代を描く新シリーズ「チンギス紀」の連載が「小説すばる」で始まる。きっとハードボイルドとは「永遠の未完」の異名なのだ。(高津祐典)