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「大丈夫、最期には必ず好々爺(こうこうや)に戻るから」

(認知症の母を看取〈みと〉った介護の先輩が私にかけてくれた言葉)

 アルツハイマー型認知症の母(92)と長く2人暮らしでした。母は80代になってもの忘れがひどくなり、82歳を超えた頃から幻覚・幻聴がでてきました。 

 入浴の介助をしていたときのことです。体にかけたお湯のしぶきが母の顔にかかりました。母はニタッと笑いながら「あなた、そんなに私が憎いの? 死ねばいいと思っているんでしょ」と言ったのです。認知症になる前には見たこともない表情で、ゾッとしました。母が悪魔のように思え、えたいの知れない恐怖を感じたのです。

 しばらくは何かにつけて「いま私を殺そうと思ったでしょ」「死んでしまえと思ったでしょ」と言われました。母のそばを少し離れていると「病気の親を放って何をしているの」。情けなくて私が涙をこぼしていると「うそ泣きでしょ」。押し入れに頭を突っ込んで「わーっ」と大声で叫びました。母親に言われていると思うから悲しい、赤の他人だと思い込もうとしました。

 無間地獄のようで、母を殺したら楽になるかも知れないと思ったこともあります。幾度か母に「死んでしまえ」と叫びそうになりました。亡き父やご先祖様の仏壇に向かって、毎日のように「早く母をお迎えに来て」と願っていました。

 そんな日々の苦しみを介護のブログに書いたとき、認知症の母をみとった先輩がコメントをくれました。「大丈夫だから。今は悪魔でも、死ぬ前には必ず好々爺に戻るから」。母親ですから「好々婆」なのでしょうが、この言葉を支えに、在宅介護を続けました。

 母は昨年、骨折をきっかけに老人保健施設に入り、いまは特別養護老人ホームで暮らしています。ずいぶん穏やかになり、罵詈雑言(ばりぞうごん)や暴力はなくなりました。同じ認知症の高齢者同士で楽しそうに会話をしています。面会に行くと「こんな遠くまで来てくれてありがとう」と私に声をかけてくれます。鬼娘だった私も、母が穏やかな最期を迎えられるよう心から願えるようになりました。

 介護する親に対する気持ちで悩み、苦しんでいる人はたくさんいると思います。孤独感に襲われている人に、「あなた1人じゃないよ」「いつか穏やかな親に戻るから」「あなたは、よくやっているよね」と言ってあげたいのです。

◆東京都 60代女性

 ※個人ブログ「鬼娘の介護日記」に体験をつづっている。

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 朝日新聞文化くらし報道部「介護 あのとき、あの言葉」係

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