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 テレビで見る番組といえば「放送」というのが常識でしたが、現在は「ネット配信」も加わりました。2015年ごろからは日本でもサービス競争が激化し、テレビより早くネット配信で最初に公開されるオリジナルドラマやアニメが増えました。

 そして現在はそこにスポーツも加わっています。特に今年は、2月末にシーズンがスタートしたJリーグの中継がネット配信サービス「DAZN」で独占配信となり、初めてネット配信で番組を見たという人も増えたはずです。

 しかし、ネット配信には放送とは違う難しさがあります。ポピュラーになり、使う人が増えれば増えるほど、その難しさに直面する可能性もあります。ここでは日本で起きたトラブルと、トラブルへの対処に全力を注ぐ海外の大手を例に少し解説してみましょう。世界最大の映像配信サービス・米Netflixへの取材からも、配信の難しさについて深掘りします。(ライター・西田宗千佳)

■Jリーグ開幕戦でつまずいたDAZN

 Jリーグが開幕した2月25、26の両日、サッカーファンは試合を見ようと、パソコンやスマートフォンを前にしていました。今年からJリーグ各試合の中継は、DAZNの独占配信になったからです。2007年以来独占中継をしてきたスカパー!は今年から権利を失いました。

 しかし残念ながら、サッカーファンの期待は裏切られました。2日ともDAZNで配信トラブルが相次いだためです。最もトラブルが深刻だった時間帯には、25日に視聴を試みた人の17%、26日は25%が、何らかのトラブルに直面したといいます(以上DAZN調べ)。26日夜には、J2リーグ全試合の見逃し配信が視聴できない状況でした(画像1)。

 これは、「独占」した立場の企業としても、そこと共同でファンに試合を届ける立場であるJリーグとしても、あってはならない事態です。3月2日、JリーグとDAZNは共同で謝罪会見を開き、事態の説明を行いました。Jリーグの村井満チェアマン(写真2)は「開幕を楽しみにしていた皆さまに悲しい思いをさせてしまい、大変申し訳なく思っている。Jリーグの次節から、万全の態勢で臨む」とコメントし、DAZNのジェームズ・ラシュトン最高経営責任者(CEO)も「ご迷惑をおかけした全てのファン、権利者、パートナーの皆様におわびする。先週末のパフォーマンスは決して許されるものではない」と、両者とも全面的に謝罪する形となりました。

 原因は後ほど述べますが、結果的には、翌週以降DAZNのトラブルはおおむね解消され、多数の人が視聴できないという事態はなくなりました。事態発覚から会見まで4日が必要であったのは、トラブルの原因を明確にし、対策を立てるためでもありました。

■自由度が魅力だが安定性に欠ける「ネット配信」

 放送から配信に替わることには、色々なメリットがあります。例えば、試合中でも一時停止や早戻しができること、リアルタイムで試合を見られなくても「見逃し配信」で後から好きな時間に見られること、インターネットさえあれば色々なデバイスで視聴できるので、視聴する場所が自由になること……。Jリーグは金銭的な面だけでなく、そうしたところも勘案してDAZNを選びました。

 しかし、配信には弱点もあります。それは、トラブルが起きる可能性が放送よりも高いということです。

 放送は、ある意味シンプルなシステムです。放送局から送られた番組が電波塔などから送信され、それを家庭にあるアンテナで受信する仕組みです。もちろんトラブルの可能性はあるのですが、広い地域で一斉に、たくさんの人が同時に視聴したとしても、問題は起きません。放送は一方的に受信するものなので、たくさんの人が見ようが少ない人が見ようが問題は起きません。一方で、全国で受信できるようにするにはアンテナを整備したり、放送衛星を使ったりする必要があります。放送は、水道・電気と同じく社会インフラであり、環境の整備に非常に多額の予算が必要になります。当然その性質上、一方的な受信、すなわち受け身の利用になります。

 しかしネット配信は、経路が非常に複雑です。

 サッカーの生中継の場合、スタジアム→配信事業者での映像データ生成→配信サーバー→インターネット内の経路→自宅→宅内のネットワーク→視聴機器と、経由する場所・機器は放送の比ではありません。

 インターネットそのものは様々な用途に使われる「汎用(はんよう)の経路」です。そこをそのまま使うため、配信経路の整備コストは下げることができて、受け身だけでない、双方向な使い方ができます。一方で、様々な場所や機器を経由するということは、その分トラブルの可能性が高まるということでもあります。一番多いのは、自宅までの回線が遅かったり、混み合っていたりして映像の画質が下がったり、コマ落ちしたりすることです。映像が途切れることもあります。特に回線品質が安定しにくいモバイル回線では起きやすいですし、無線LANが混み合っていても起きます。また、サーバーが混み合っても、同じように配信が滞ることがあります。

 インターネットはその性質上、多数の人が一度に利用すると混み合い、トラブルが発生しやすくなります。動画配信はその典型で、一度に多数の人が利用しようとすると、トラブルが起きやすいのは事実です。それを避けるには、サーバーや配信側の回線を十分に用意し、混雑の悪影響が出ないようにすることが必要になります。

 ですが、DAZNのラシュトンCEOは「原因は別にあり、アクセス集中が問題ではない」と言います。トラブルの原因は、映像をデータ化(エンコード)する際のシステムに不具合があったことでした。珍しい条件が重なった時に起きる不具合があり、Jリーグ開幕時にそれが最悪の形で発生し、しかも25日は「一時的な問題」と判断され、原因が特定できなかったことがトラブルの拡大を招きました。DAZNはJリーグ開幕に合わせたトラブルの洗い出しをできず、ファンの期待を裏切ってしまったわけです。

 同社は、2月25、26日にサービスへのアクセスを試みたユーザーに対し、2週間分の無料視聴権を提供することになりました。NTTドコモ経由で提供される「DAZN for docomo」契約者には、NTTドコモからdポイントが500ポイント提供されます。

■Netflixが「全世界同時配信」できる理由

 ネット配信は世界的な潮流です。特にアメリカでは、音楽から映像まで、ディスクからネット配信へと急速に移行しています。

 アメリカでトップシェアであり、世界でも有料契約者数9400万人という圧倒的な数を誇るNetflixの本社(米カリフォルニア州ロスガトス)に取材に行ってきました。3月17日0時(現地時間)から、Netflixの新作オリジナルドラマ「アイアン・フィスト」の世界同時配信がスタートするのに合わせ、世界中から記者が集められたためです(写真3)。

 Netflixはアメリカだけで5千万人もの加入者を集めており、プライムタイム(テレビの視聴が最も多い時間帯)のインターネットトラフィックのうち、3割から4割がNetflix向けで占有されるほどです。しかし、大規模なトラブルがあったという話はほとんど聞きませんし、ニーズの高いオリジナルドラマの配信が始まった直後でも、映像が途切れたり画質が急に落ちたりということは見られません。

 これだけのシステムをどうやって安定させているのでしょうか? 同社のネットインフラ構築を担当するコンテンツデリバリー担当副社長のケン・フローレンス氏は「特別なシステムがなければ、全世界同時配信はできません。混雑を避けるのも同様です」と説明します。

 太平洋を越える通信には主に海底ケーブルが使われますが、全ての国に広帯域のネットワークがつながっているわけではありません。各国からNetflix向けの通信が全てアメリカに直接アクセスすると、海底ケーブルはパンクしてしまいます。海底ケーブルの敷設とメンテナンスには非常に高いコストが必要で、Netflixだけで敷設することも、占有することもできません。アメリカ国内ですら、Netflixだけで回線を占有することはできません。それではどうするのでしょうか?

 Netflixは専用のサーバー(写真4)を、あらゆる場所に配布しているのです。インターネットサービスプロバイダー(ISP)の中や、インターネットの集約地点であるインターネット・エクスチェンジ(IX)に、無償で専用サーバーを配り、そこに大量の映像コンテンツを蓄積しておきます。そして、ユーザーからNetflixへのアクセスがあれば、経路の間で専用サーバーが「肩代わり」することで、インターネット全体に負担をかけないようになっているのです。写真5をご覧ください。この世界地図のうち、緑色の点はISP内に専用サーバーが置かれた場所、オレンジの点はIX内に専用サーバーが置かれた場所を示します。フローレンス氏の説明によれば、Netflixへの全アクセスのうち、95%がインターネットの基幹回線へは出て行かず、専用サーバーまでのアクセスで終わっているということです。

 各専用サーバーには、その地域でどのような作品が多く見られるかという統計に基づき、ニーズの高い作品が集中して置かれています。その内容は時期に合わせて更新されています。また新作の一斉配信がある時には、事前にその作品を専用サーバーに送っておき、世界中のどこでも同時に見られるようになっています。転送に使うのは、ネットへのアクセスが減る深夜。その方が転送料金を減らせるからです。

 専用サーバーをつくって配ったり、必要なコンテンツを再配信する仕組みをつくったりするには、高い技術力と相応のコストが必要です。しかし、そうしないと安定的な大規模配信はできませんし、そもそも、ずっと高いコストが必要になります。

 Netflixのリード・ヘイスティングスCEO(写真6)は「Netflixはコンテンツをつくる企業であるのと同時に、テクノロジーの会社」と語ります。実際、4700人の社員のうち、大半がエンジニアであり、こうした技術の開発に従事しています。

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