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 10年前、突然の事故で歩けなくなった女性がいる。「誰だって『障害者』になり得る。引きこもっている人が、表に出て来られるように」。そんな思いで、仲間たちと映画づくりに乗り出した。目指すのは「心のバリアフリー」だ。

 池田君江さん(42)は2007年6月、勤めていた東京・渋谷の温泉施設「シエスパ」で爆発事故に遭った。働き始めてわずか1週間後のこと。控室で昼食を食べようとしていたときに、体全体をロッカーにたたきつけられた。

 3人が死亡した大事故。池田さんは脊髄(せきずい)を損傷し、全身15カ所を骨折した。車いす生活が始まった。それまで身につけていた服や靴は使えなくなった。「バリアフリーではないので」「他のお客様のご迷惑になる」。好きだった食べ歩きを控えるようになり、街の景色は一変した。

 事故から2年後。「また断られるかも」と思いながら入った近所の串カツ屋で、店長は「車いすに触ったことがない」と言いながらも、入り口の段差で車いすを引っ張り上げ、店に入れてくれた。「バリアフリーかどうかより、歓迎する気持ちが大切なんだ」

 13年、NPO法人「ココロのバリアフリー計画」を立ち上げた。障害者が店選びをする判断材料になればと、店の入り口の段差の高さやトイレの幅など集めた情報を1人でネット上にまとめていった(http://www.heartbarrierfree.com/別ウインドウで開きます)。徐々に支援者が増え、今では飲食店やネイルサロンなど約1100店舗が加盟する。「障害があっても、行けないところもできないこともない」

 建物の構造だけでなく、心のバリアフリーも広めたい。映画を通じて伝えようと15年6月、「バリアフリー・フィルム・パートナーズ」を立ち上げた。

 メンバーの一人、村越ちはるさん(26)は先天的に身長が伸びない「小人症」だ。身長は105センチほど。高い段を上れないことがある。日本で「手伝いましょうか」と声をかけられることはほぼない。「声をかけてくれるのは外国人観光客ばかり。どう接して良いのか分からないのでしょう」

 健常者と障害者との間だけでなく、「バリア」は誰にでもあると感じる。「障害者同士でも、もちろんある。自分の持つバリアを認めることで、他人の手助けだって素直に受け入れられる。バリアを自覚することが第一歩」と話す。

 来年の公開を目指して制作中の映画は、女優を夢見る女性が事故で車いす生活になりながらも、様々な境遇の人たちとの交流を通して将来の目標を見つけ、自分自身の内面にあったバリアにも気付いていくというストーリー。帆根川廣監督(44)は、障害や病気を克服したメンバーらに体験談を聞き、脚本に落とし込んだ。「バリアを乗り越えた体験は、他の人が乗り越えるきっかけになる。障害者に限らず、誰もが幸せに生きられる社会になれば」(牛尾梓)