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 日本に「詩の朗読の名手が3人いる」と、亡くなった哲学者の鶴見俊輔さんが言ったことがある。谷川俊太郎、永瀬清子、長岡輝子の3人。

 この3月、谷川俊太郎さんと女優の樹木希林さんが鳥取に来て下さった。そのフォーラム、とりあえずのタイトルは「死ぬときぐらい 好きにさせてよ」だったが、参加者が定員をはみ出しそうだったので、2人に了解を得て、「ざっくばらんとおく」という時間を用意し、出席してもらった。2人は日本を代表する詩人と女優、貴重な表現者。用意された舞台を見、客席を見、臨機応変にどのような形の表現もこなす。

 話の流れの中で、谷川さんの最初の詩集にある「二十億光年の孤独」の朗読を希林さんにお願いした。「書いた本人でない者が読んでも、作者の思いには至らない。しかも本人を前に、失礼だわ」とおっしゃったが、朗読して下さった。ゆっくり、ていねいで、やや低めの深みのある声で。「(前略)万有引力とは/ひき合う孤独の力である 宇宙はひずんでいる/それ故みんなはもとめ合う 宇宙はどんどん膨らんでゆく/それ故みんなは不安である」。初めて聞く人もいただろう。会場はシーンとなった。朗読は最後の2行にさしかかる。ぼくはユーモラスな最後の2行を暗記していた。「二十億光年の孤独に/僕は思わずくしゃみをした」。ところが予想外のことが起こった。希林さん、「思わず」のあと、ほんとに「くしゅんっ」とくしゃみを入れ、「くしゃみをした」と終えた。くしゃみ実況入りの詩、初めて聞いた。お見事。会場も思わず大拍手。

 舞台を去り、控室で谷川さん、「いいね、あの朗読」と肯(うなず)いていた。樹木希林さん、詩の朗読でも日本の名手だった。

<アピタル:野の花あったか話>

http://www.asahi.com/apital/column/nonohana/(アピタル・徳永進)

アピタル・徳永進

アピタル・徳永進(とくなが・すすむ) 野の花診療所医師

1948年鳥取市生まれ。京都大学医学部卒業。京都、大阪の病院・診療所を経て、鳥取赤十字病院の内科医に。2001年12月、鳥取市内にてホスピスケアのある有床診療所「野の花診療所」を始め、さまざまな死の形を臨床から報告。鳥取市にセミナーハウス「こぶし館」を建築し26年になる。