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 前回、抗菌薬が効かなくなる「耐性菌」が増加した原因は、抗菌薬の乱用と不適切に少ない投与量にあるとお話ししました。これは一見矛盾するようですが、抗菌薬の投与は「菌を殺すのに十分な量を、できるだけ短い期間で投与すべきだ」という意味です。

 もちろん、細菌感染症でなければ、抗菌薬は「百害あって一利なし」です。投与すべきではありません。ただし、これは簡単なようで今も医師を悩ませる難しい問題です。問診や視診、聴診だけでは、細菌による感染なのかわからないことも多いからです。こうした所見と医師の経験によって「細菌感染症」と見込んで抗菌薬を投与することは、現在でも普通に行われています。

 さらに難しいのは、検査の結果から本当に細菌感染とわかった時の抗菌薬の選択と、その量と期間を適切に決めることです。大まかなガイドラインはありますが、常にケース・バイ・ケースであり、その場の医師の判断によるところが大きいのです。感染症の種類によっては軽症マイコプラズマのように1回の投与で済む場合もあれば、膿瘍(のうよう)感染や結核のように数カ月以上にわたって抗菌薬を飲み続ける必要がある場合もあります。

 また、感染症は本人の免疫防御反応による自然治癒がある程度見込まれる病気ですから、医師の行った治療(抗菌薬の選択や投与方法)が本当に適切なものであったかどうかは別として、結果的に治ってしまったということがいくらでも生じます。手術や抗がん剤が有効だったかどうかが、後に結果としてはっきり表れるがん治療などとの大きな違いです。これが一層「抗菌薬の適正使用」を難しくしている原因でもあります。

 近年、我々医師が気をつけていることは、「あまり広域に効く抗菌薬を使いすぎない」ことです。広域に効く抗菌薬とは、例えば感染を起こす菌が100種類あったとしてその90種以上にまで効いてしまう抗菌薬のことです。逆に「狭い抗菌薬」もあり、それは例えば10種類くらいの菌にしか効かない抗菌薬です。

 抗菌薬の選択にはこの「広い抗菌薬」にするか「狭い抗菌薬」にするかの問題が常につきまといます。なぜなら、広い抗菌薬ほど原因菌を殺せる可能性は高まりますが、その人の体に耐性菌が生まれたり、他の人から耐性菌をもらったりしてしまう危険性が高まるからです。

 広域抗菌薬の代表はカルバペネム系抗菌薬とニューキノロン系抗菌薬です。狭い抗菌薬はペニシリン系や第1または第2世代セフェム系と呼ばれる抗菌薬です。

 現代の医師は「できるだけ狭い抗菌薬で治療することを心がけることが重要」と教育されています。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座准教授 齋藤紀先)