【動画】手塚治虫文化賞贈呈式
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 第21回手塚治虫文化賞の贈呈式が5月31日、東京・築地の浜離宮朝日小ホールであり、マンガ大賞を受賞したくらもちふさこさんと、特別賞の秋本治さんが記念対談を行った。長年の友人である2人の大物漫画家が、若き日の思い出や、共に作品で採りあげた弓道について話を弾ませた。

 贈呈式に、杖をついて登場したくらもちさん。あいさつで、駅の階段で足を滑らせてねんざしたことを明かした。秋本さんは「重要な時に、サザエさん的というか、おちゃめな感じは昔から変わらない」と切り出した。

 1976年から集英社の「週刊少年ジャンプ」で「こちら葛飾区亀有公園前派出所」を連載した秋本さん。くらもちさんも同時期に集英社の「別冊マーガレット」で「おしゃべり階段」「いつもポケットにショパン」など傑作を発表していく。

 「別マ」がブームで、秋本さんやほかの男性作家も掲載された少女漫画を愛読していた。「大胆にも、別マの作家さんたちとお食事会とかやってくれませんか、って担当者に頼んだんですよ。そしたら、向こうは編集長がガードマンとして来ました。『うちの看板作家になんかあったら』ということだったんでしょう」

 担当編集者も交えて、漫画家グループで食事などの交流を重ねたという。くらもちさんが鮮明に覚えているのは、秋本さんが真っ黒なバイクに革の上下で決めてきたこと。

 秋本さんは振り返る。「みんなは車で移動して、ぼくはバイクで追っかけなくちゃいけなくて。まかれたら二度と会えないと必死で追いかけましたよ」

 締め切りに追われる人気漫画家たちだが、期日を約束して大勢で会うのが励みになったという。

 「でも私は月刊でしたけど、秋本先生は……」(くらもちさん)

 「そうだ、ジャンプは週刊でしたね、忘れてました(笑)。でも逆に、わーとやっちゃいます。月刊でも遅れる人は遅れますから」(秋本さん)

 「それ、私です」(くらもちさん)

 息の合った掛け合いに会場は笑いに包まれ、話題は2人が共に作品で採りあげた弓道に移った。

 マンガ大賞を受けたくらもちさんの「花に染む」は弓道で結びつけられた4人の繊細な心模様を描いた。秋本さんも「こち亀」で、早矢という弓道をする女性キャラクターを登場させている。

 秋本さんは、東京武道館の近くに仕事場を構えていた時、弓道選手の姿を目撃したのがきっかけだった。「大会の昼休みとかで、はかま姿の女子が公園で食事している。それが格好良く、色っぽくて」。ところが、いざ描こうとすると、一般になじみが薄い競技ということもあって、資料が乏しい。「本当に苦労しましたよね」とくらもちさんも強くうなずく。

 秋本さんは専門店に乗り込み、弓矢を買う。門外漢には近寄りがたい雰囲気だったが、いかにも経験者の風情で「竹の矢をちょっと使いたい」などと言いながら、あれこれメモをとった。「取材させてくださいだと、向こうは構えてしまいますから」

 「そこまでしたんですか! 私はまだ甘いですね」。そう言うくらもちさんはアシスタントと一緒に、スポーツセンターの弓道教室に半年ほど通った。そのうち、アシスタントの1人が本格的に始めて、だんだん細かいことまで分かるようになった。でも、じつは自分の弓は買っていない。

 「あんなにさりげなく細かい描写があるのに、買ってないんですか」と驚く秋本さん。「でも、それが漫画家のすごいところ。バイク漫画を読んで、この作者は相当乗れるだろうと思ったら、『乗ったことない』と平気でがっかりさせる。いかにもやったことあるように見せるのが力量ですよ」

 おおいに盛り上がった対談の最後、秋本さんは「古き良き友人が大賞をもらって本当にうれしかった」。くらもちさんも「秋本さんがいてうれしくて、本当に心強かったです」と締めくくった。

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