[PR]

 義務教育から、多様な性について教える必要がある――。児童生徒のころにいじめを受けることが少なくない性的少数者のこんな声を記事で紹介したところ、小中学校の先生たちから「授業で初めてLGBTを取り上げた」というメールが届きました。小中学生に多様な性について教えるのは時期尚早なのでしょうか。寄せられた意見をもとに考えます。

■中学校では「まだ早い」

 多様な性について教えてほしいという、性的少数者の思いを覆す形で、今年3月に告示された小中学校の次期学習指導要領に、「思春期になると、異性への関心が芽生える」(体育)の記述が残りました。読者から様々な意見が届きました。

 神奈川県の地方公務員の女性(53)は数年前、性別に違和感のある高校生が「中学で制服や体育など男女で区別があることがつらかった」と講演会で話すのを聞いたそうです。女性は仕事で訪れた中学校で教員に「LGBTをテーマにしたワークショップを開きたい」と伝えました。でも、「うちにはそういう子はいない」「まだ早い」と反応は冷ややか。「LGBTの理解がなかなか進まないのは、当事者が自分の性に違和感を持ち始める学齢期に、先生たちが関心を示してくれないからではないか」と女性はみています。

 性的少数者の当事者の声も届きました。栃木県の高齢者施設で働くトランスジェンダーの女性(53)は中学3年ごろから、出生時の男性という性別に違和感を持ち始め、自己肯定感を持てなかったそうです。「自分自身がそうでないとわかりにくいでしょうが、(先生には)わかろうとする努力はしてほしいし、積極的に勉強してほしいと思います」

 一方、「同性の友だちから、好きと告白されたが、恋愛感情はない。どう答えたらいいか」という10代少女のSNSの書き込みを見て、長野県の主婦(52)は思ったそうです。LGBTについて教える先生たちは、多様性を認め合うことと、相手を恋愛対象として受け入れるかどうかは別次元の問題だと理解したうえで、「率直に『今のまま友だちでいたい』と言って構わないんだよ」と言えるだろうか。「先生には理念を説くだけではなく、現実も知ってほしい」といいます。

 多様な性について学習指導要領に記載することに否定的な意見もありました。小、中、高校生と3人の子どもがいる静岡県の元看護師(41)は、「思春期になると異性への関心が芽生える」という指導要領に「同性もありうる」と記載され、教師がそう教えるようになったら、子どもにどのような影響が出るのか母親として憂慮している、と書きました。同性から告白されたらどう思うかと子どもたちに尋ねたら、「困るし、気持ち悪い」「受け入れられない」という言葉が返ってきたそうです。「多様性を認めるという言葉のもとに、LGBTを受け入れることが道徳であり、やさしさである。そうでなければ差別やいじめであると教育されるとしたら、子どもたちの言葉は差別発言になるのでしょうか」

■いつか生きる力になる

 「小学校現場では、思いのある教員が草の根的に、子どもたちに必要な生きる力としてLGBTについて教えています」とメールをくれたのは、神奈川県三浦市立初声小学校の養護教諭、及川比呂子さん(57)です。今年3月、6年生の担任4人とともに、児童約100人に対してLGBTの授業をしました。

 きっかけは昨夏。女性に生まれ、男性として生きるトランスジェンダーの人の話を養護教員対象の研修で聞いたことでした。「自分は男の子だと感じていたので、セーラー服や女性用トイレが嫌だった」という言葉に、保健室によく来ていた元教え子のことが頭に浮かんだそうです。修学旅行で同級生男子と一緒にお風呂に入るのが「地獄だった」と話していました。気にかけたものの、当時は性的少数者についての知識も情報もなく、何もできませんでした。

 だから、今教えている子どもたちが中学に進学する前にどうしても授業をしておきたいと思った、といいます。中学生では男女で制服が異なり、割り切れなさや悩みを抱える人がいるかもしれないからです。半年かけて指導案や教材を手作りし、道徳の時間に授業を実施しました。

 「LGBTって何だろう?」「笑いのネタにしない」。画用紙に描いたイラストや、トランスジェンダーの大学生が自分らしい服で成人式に出たことを伝える新聞記事などを使い、子どもたちに伝えたそうです。

 「女の子の体でうまれると『自分は女の子』と思える。男の子の体でうまれると『自分は男の子』と思える。そうではなく、体と心がしっくりこない人もいる。それでいいんだよ、困ったら相談していいんだよ、ということを知っておいてほしい」

 子どもたちからは「LGBTって知らなかった。すごくためになった」「男の体の人は自分は男だと思う。女の体の人は自分は女と思う。なんでそうなるのだろうか」といった感想が寄せられ、及川先生は授業の1週間後に6年生に配った「ほけんだより」にこう書きました。

 「先生も答えが見つからないです。とても深く授業を受け止めてくれたんだね。一緒に悩んでいこう」

 「一緒に行った学習は算数や国語とは違うけれど、きっといつかどこかでみんなの生きる力になるはず、と信じています」

 中学校の先生からも授業の報告が届きました。島根県吉賀町立六日市中学で社会を教える山本悦生先生(47)です。社会に排他的な風潮が強まる中、LGBTについて理解することで、人権について考え、多様性を認め合うことができるのではないか。そう考え、昨年10月、3年生のクラス9人に対して社会の「基本的人権の尊重」の学習の中で、初めてLGBTについて扱いました。平等権に関連して、部落差別や女性の労働環境、夫婦別姓などについて3時間かけて取り上げた後、LGBTの授業に1時間をあてました。

 授業では、「13人に1人は性的少数者といわれる」などと伝えたうえで、6年前に、当時14歳だった米国人少年がユーチューブに投稿した動画の一部を紹介。少年はバイセクシュアルで、学校でいじめられましたが、「状況はよくなる」と語っていました。結局その後、自ら命を絶ってしまいます。また、同性婚をめぐる世界各国の状況や、東京都渋谷区の同性パートナーシップについて、新聞記事を使って学習しました。

 以下は生徒の感想の一部です。

 「この少年のように、命を絶つ人が出てくるのはもう嫌です。LGBTの人をきちんと理解し、受け入れることができるようになりたい」

 「僕も普段、同性愛者に対する差別的な発言をしていたことに気づきました。学校の先生はLGBTがわがままでないことを理解し、生徒の思いをくみとるべきだと思います」

■多様な性 肯定的にみる効果

 LGBT支援団体「いのち リスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン」(東京)が2013年に10~30代のLGBT当事者約600人に行った調査では、いじめや暴力を受けたことがある人は68%。LGBTをネタとした冗談やからかいを見聞きした人も84%にのぼりました。

 子どもたちに多様な性についての授業をすることで、どのような効果があるのでしょうか。

 宝塚大看護学部の日高庸晴教授(社会疫学)は、エイズ予防教育の一環で、奈良県高校人権教育研究会とともに授業の指導案を作成。昨年4月から11月にかけて、同県内の高校13校で、教員が多様な性についての50分間の授業をしました。授業では、性的指向と性自認の違いなどについて解説した後、「男を好きだなんて気持ち悪いという言葉を聞くたびに傷ついて、ますます(バレるのを)恐れるようになった」というHIV陽性者のゲイ男性の手記を先生が読み上げます。そして、どうすれば当事者が傷つかないような社会にできるか、生徒が話し合いました。

 授業を受けた生徒に授業の前後で14項目について尋ね、授業の効果を検証しました=グラフ。すべての項目で、性的少数者について否定的な回答をした生徒の4~5割の意識が、授業後は肯定的に変わったことも分かりました。

 「普段から子どもに接している先生が教えることの意義は大きい」と、日高教授。授業の指導案や調査結果をまとめた45ページの冊子を、希望する教育関係者に配布することを検討しているといいます。

 性的少数者の若者と支援者らでつくるNPO法人ReBit(東京)でも今年3月、中学校の教員向けに、LGBTについて先生が知ることから生徒に教えるまでのプロセスを体系化した教材キットを作り、無料で提供を始めました。当事者の若者らが中学時代に感じていた孤独感などを語るDVDや、中高一貫校で教えるトランスジェンダーの教員(27)が作った指導案も含まれています。

 この教員は、学習指導要領にLGBTという言葉がなくても、「道徳の時間の目標」には「人間理解」「他者理解」などと記載されており、道徳の時間などにLGBTの授業をすることは可能だ、と指摘。先生たちには、LGBT「を」学ぶ授業ではなく、LGBT「で」学ぶ授業をめざしてほしい、と語ります。

 「子どもたちは将来、変化と多様性に富んだ社会に出ていきます。その時、多様な価値観を受け入れる土壌がなければ、苦労するのは彼ら自身。私たち教員は、子どもたちの中に、人は多様であるという意識を育まなければならないと思います」とこの教員は話します。

     ◇

 鹿児島大学、そして小中高校の授業を通して、多様な性を社会はどう受けとめ、受け入れていけばいいのか、皆さんと考えてきました。鹿児島大学では、性的少数者と社会について学生たちの議論がさらに続いています。授業などでの議論をもとに、また皆さんとこの面で考えたいと思います。(杉山麻里子)

     ◇

 〈LGBT〉 レズビアン(女性同性愛者)、ゲイ(男性同性愛者)、バイセクシュアル(両性愛者)、トランスジェンダー(性同一性障害を含む体と心の性が一致しない人)の頭文字で、性的少数者の総称として使われることが多いようです。性的少数者には、心の性が男女どちらでもないXジェンダーや、性愛を感じないアセクシュアルなどの人もいます。電通ダイバーシティ・ラボが15年に行った国内の成人約7万人を対象にした調査では、性的少数者に当たる人は全体の7.6%でした。

     ◇

 ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするか、ファクス03・5541・8259、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞オピニオン編集部「フォーラム面」へ。

こんなニュースも