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 ふだん健康な人ならまず負けることのない菌が、体の抵抗力が弱っている状態につけ込んで感染症を引き起こすことがあります。そういう感染症のことを「日和見感染」と呼びます。

 日和見感染をおこす菌は、ふだんから体にいる常在菌か、生活環境のどこにでも存在していながらふだんは人が接触しても病気にはなりにくい菌などです。薬剤耐性菌による感染症も基本的に日和見感染です。もし耐性菌が健康な人にもどんどん病気を引き起こす菌であれば、人類滅亡の危機ですからね。

 一方、日和見感染を生じやすい、すなわち感染症に対する防御反応が低下している人のことを「易感染性宿主(いかんせんせいしゅくしゅ)」と呼びます。具体例を挙げれば、手術後の患者、寝たきり患者、85歳以上の超高齢者、糖尿病患者、透析患者、がん患者、白血病患者、エイズ患者、副腎皮質ステロイド薬や免疫抑制剤を投与されている人などです。これ以外の病気でも、終末期にある人は「易感染性宿主」です。

 突然ですが、日本人の死因は1位が「がん」、2位が「心疾患」、3位が「肺炎」です。しかし、がんが大きくなったからといって、何らかの臓器が圧迫されて死に至るわけではありません。

 がんの終末期にはほとんどの患者が日和見感染を伴います。とくに、がんによって栄養状態が悪くなっていくと胸水がたまりやすくなり、最終的には肺炎による呼吸不全で亡くなるパターンが多いのです。

 心疾患でも胸水がたまりやすくなることが多く、肺炎で亡くなる場合がよくあります。

 3位の「肺炎」については、健康だった人がいきなり肺炎になって命を落とすことは非常にまれで、ほとんどの場合、何らかの基礎疾患を持った人が「易感染性宿主」となり「日和見感染としての肺炎で命を落とす」という結果が含まれています。人は最終的にかなりの割合で肺炎または敗血症(血流に菌がはびこる全身感染症)という感染症で亡くなると言っても過言ではありません。

 感染症なら「その菌に効く抗菌薬を投入すれば必ず治る」と誤解している人がいますが、それは間違いです。確かに、感染部位以外の臓器がすべて正常で栄養状態も良い人なら、抗菌薬で治る確率は非常に高いでしょう。

 しかし、重症感染症になること自体、その人が何らかの理由ですでに「易感染性宿主」である場合が多く、普通の人より体力や免疫防御反応が落ちている状態にあるのです。そういう状態では適切に抗菌薬を投与しても救命できないことが少なくありません。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座准教授 齋藤紀先)