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 陸上の世界記録は信用に値するか。世界で相次いでいるドーピング問題を受け、国際陸上競技連盟が世界記録の見直しを検討することになった。記録の公認について新たな基準を設けて透明性を高めるのが狙いだが、反対意見も多い。

 きっかけは、ロシアの国家ぐるみのドーピング問題などで危機感を募らせている欧州陸連の提言だ。今年1月下旬、欧州陸連はタスクフォース(作業チーム)を発足させ、欧州記録の信頼性を調査。4月末の理事会で記録の見直しが必要と結論づけ、国際陸連へ報告書を送った。

 提言では、記録公認の条件として①最高水準の審判や技術装置が備えられている公認の国際大会であること②選手は大会前の1年間に一定数以上のドーピング検査を受けること③記録達成時の検体を再検査用に10年間保存すること――の3点を挙げている。

 AP通信などによると、検体保存は2005年から始まったため、04年以前の記録は全て抹消されるという。欧州陸連のハンセン会長は、「人々が信用できる記録でなければ意味がない。これは革新的な提案だ」と力説する。国際陸連のセバスチャン・コー会長も「正しい方向への一歩」と支持し、8月の国際陸連の理事会で話し合われる予定だ。

 しかし、現世界記録保持者らからは反発の声が続出している。03年に2時間15分25秒の女子マラソン世界最高記録を樹立したポーラ・ラドクリフさん(英)は、「私の名声や尊厳を傷つけられる。しかも、検査自体、全ての不正を見つけることができていない現状で、なぜ白紙に戻すのか」と批判。1984年ロサンゼルス五輪男子三段跳び金メダリストのアル・ジョイナーさん(米)も怒り心頭だ。亡くなった妻のフローレンスさんが88年に記録した女子100メートルの10秒49、200メートルの21秒34を「守る」と宣言し、米メディアに「あらゆる法的手段を探し出し、闘う」と話している。

 10万人以上の五輪出場選手で組織される世界オリンピアンズ協会(WOA)も反対した。容認すれば、過去の記録保持者が全員ドーピングしていたと思われかねないためだという。

 厳しい意見に、ハンセン会長は声明を発表。「賛否の意見が出るのは予想していた。だが、議論を促すという最初の目標は達成された」とし、世界記録問題の解決には何らかの措置を講じる必要性があると改めて強調した。

 結果次第では、85年に女子400メートルで47秒60を出したマリタ・コッホや、88年に「永遠に破られない」とも言われる76メートル80を投げた女子円盤投げのガブリエレ・ラインシュ(ともに当時・東独)の世界記録が抹消される可能性もある。(遠田寛生)