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 今回の話はちょっと専門的ですが、抗菌薬と耐性菌の関係を理解するうえで非常に重要なところですから、少し勉強しましょう。

 ペニシリンと同じ系列の抗菌薬はその成分として「βラクタム」という部分をもっています。このβラクタムが細菌の細胞壁(細胞を守る外壁)を壊すことで、菌を殺すことができるのです。

 菌は破壊するのに、どうしてヒトにはほとんど害を与えないのかというと、動物の細胞は細胞壁ではなく、細胞膜という異なる成分で細胞が守られているからです。

 このβラクタムの作用によって菌を殺す抗菌薬を「βラクタム系抗菌薬」と言い、現在医療現場で最も多く使用されている抗菌薬です。

 しかし、ペニシリンに始まったβラクタム系抗菌薬が普及するにつれ、その薬が効きにくい細菌が目立つようになりました。それは、「βラクタマーゼ」という物質を産生する菌が増えてきたからです。

 「アーゼ=ase」は、「分解酵素」という意味です。βラクタムを分解するアーゼ、すなわち「βラクタマーゼ」を菌がもち始めたのです。これが耐性菌の始まりです。

 医学者や製薬会社は、菌の出すβラクタマーゼでも分解されにくい新しいβラクタム系抗菌薬を開発します。するとそれが普及するにつれ、「さらに強力にβラクタムを分解する新しいβラクタマーゼ」をもつ菌が登場します。

 このように、人間と細菌による「いたちごっこ」が続き、ついに、βラクタム系抗菌薬ではもう殺すことのできない「多剤耐性菌」があちこちで生まれてしまいました。

 その代表が何度も登場しているMRSA(メチシリン耐性黄色ブドウ球菌)です。メチシリンは当初、非常にβラクタマーゼに強い(壊されにくい)抗菌薬だったのです。

<アピタル:弘前大学企画・今こそ知りたい! 感染症の予防と治療>

http://www.asahi.com/apital/healthguide/hirosaki/(弘前大学大学院医学研究科臨床検査医学講座准教授 齋藤紀先)