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 イノシシやシカなど農作物を食い荒らす有害鳥獣の捕獲頭数を水増しするなどして国や自治体の報奨金をだまし取る不正が後を絶たない。確認方法を厳しくすれば狩猟者の手間が増えて捕獲が減るという見方もあり、ジレンマに悩む自治体も多い。

 「同じ個体では?」

 鹿児島県霧島市で昨年7月、市が任命した捕獲従事者が提出した証拠写真を確認していた市職員が、1頭の個体の写真を使い回して2頭捕獲したように見せかける偽装に気づいた。市は2013年度以降の報告書や写真などを検証。5月、捕獲従事者29人による252件分(報奨金計約241万円)を虚偽報告と認定し、29人を捕獲従事者の資格停止処分にしたと発表した。前田終止(しゅうじ)市長は会見で「虚偽を見抜けなかったことは誠に遺憾で、心よりおわび申し上げる」と陳謝した。

 市ではイノシシやシカ1頭あたり1万2千円(国の補助金含む)などを支給。狩猟者は捕獲場所や日時などが記された看板と個体が写った写真、両耳やしっぽの現物を提出する必要がある。捕獲関係者によると、不正の手口は、裏返して撮影して異なる個体と偽ったり、報奨金が出ない時期に捕った個体の耳などを冷蔵保存して提出したりするもの。市の担当者は「対策には自信を持っていた。あまりに想定外だった」。写真の撮影方法を厳しくし、確認にあたる担当者も1人から2人以上に増やす。

 兵庫県佐用町でも狩猟者2人が14~16年度に鳥獣害防止ネットにかかるなどしたイノシシとシカ計34頭を、報奨金の対象となる箱わなで捕まえたと虚偽申告したことが発覚。昨年12月に約27万円を返還した。

 農林水産省は4月、国の補助金を受け取る自治体に確認方法を報告するよう指示。不十分と判断すれば指導も行う予定だ。確認方法に統一的な基準はなく、同省は「自治体の担当者による現地確認が基本」とするが、「手間がかかって現実的ではない」との声も出る。

 各地の自治体は確認方法に頭を悩ませる。

 エゾシカによって毎年1億円超の被害に悩む北海道釧路市。昨年の報奨金は国の補助金込みで1頭1万円だった。日付が入った個体写真、しっぽの提出を義務づけていたが、霧島市などの不正を受け、今月から胴体の定位置にスプレーで日付を入れて撮影してもらうことにした。革製品に使うことも考えて控えていたが、「より正確に確認できる対策が必要だと考えた。ただ、今でさえ『負担だ』との声はあり、捕獲数が減る懸念はある」と話す。

 山陰地方のある町はしっぽの確認のみで、イノシシ1頭あたり町費で1万5千円を支払う。担当者は「正直、不正は簡単にできる。見直すべきだと思うが、猟友会に信じていないと思われて関係が悪化しないか心配だ」と打ち明ける。

 島根県の旧邑智(おおち)町(現在の美郷町)は水増し疑惑が浮上し、00年にしっぽだけの確認から現地確認に切り替え、合併後も続ける。昨年度の捕獲はイノシシとサルで約700匹。捕獲場所の近くにいる職員が曜日や所属部署にかかわらず出向くなどして全て確認したという。町職員の安田亮さん(49)は「税金を使う以上、行政側が手間を惜しまずに不正がない仕組みを作るのは当然のこと。現地確認で問題点も迅速に把握でき、きめ細かな対策につなげられる」と話した。(東郷隆、大久保忠夫 東郷隆、大久保忠夫)

シカ1頭に3万円弱、予算確保に苦しむ自治体も

 農水省によると、農作物の鳥獣被害は15年度、約176億円。国は23年度までにシカとイノシシを11年度の約425万頭から半減させる目標を掲げる。ただ、狩猟者の減少などで目標達成は危ぶまれている。国は駆除を加速させようと実質的に13年度から一定の条件を満たす市町村にシカやイノシシなど1頭の駆除につき最大8千円を補助する制度を開始。独自の報奨金を設ける自治体も多い。シカ1頭で国庫補助合わせて3万円弱が支払われるところがある一方、捕獲数が急増して予算確保に苦しむ自治体も出ている。

 岐阜大野生動物管理学研究センターの鈴木正嗣教授は「報奨金は捕獲意欲の維持など一定の意義はある」としながらも「報奨金を目的とする捕獲は容易に捕れる場所で行われることなどもあり、必ずしも被害防止とイコールではない。行政は過度に期待せず、科学的な根拠に基づいて実効性の高い駆除のあり方を常に模索するべきだ」と話す。(東郷隆、大久保忠夫 東郷隆、大久保忠夫)