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■個別判断の国で:1

 日本では「認知症」と診断されると運転できなくなる。これに対し、認知症の人が症状次第で運転を続けられるところもある。たとえばオーストラリアやイギリス。米国も州によっては、そうなっている。

 日本とこうした国々は、道路事情や人口規模に違いがある。だとしても、「どのように運転の可否を判断しているのか」には認知症の人の急増が見込まれる日本にも参考になる部分があるのではないか――。そんな思いで、3月にオーストラリア南東部のビクトリア州を訪れた。

 5月に朝日新聞の紙面で報告したが、書ききれないことも多かった。個別判断に大きな役割を果たしていた作業療法士(OT)への取材を通して見えたこと、感じたことを中心に、4回にわたり報告する。

■全州共通の原則

 OTの役割を具体的に見る前に、まずオーストラリアの運転事情をざっとみておこう。免許行政は州政府の所管だ。ただ、認知症の人が運転できるかどうか個別に判断する原則は全州に共通する。

 その前提として、個々のドライバーに課されている義務がある。安全な運転に影響を与えうる病気や障害について、免許行政機関に届け出るという義務だ。この義務も全州共通。そして認知症は、届け出が必要な病気や障害のひとつとなっている。

 ビクトリア州はオーストラリア第2の都市メルボルンを州都に抱える。人口は610万人で、このうち460万人がメルボルン地域に集中する。

 このため、メルボルンや近郊の交通量は多く、朝夕の道路は渋滞が目につく。道路環境では片側3車線、しかも交わり方が複雑な交差点に出くわす大通りもあれば、道路の中央を走る路面電車に飛び乗ろうと歩道から歩行者が飛び出してくるような道もある。認知症でないドライバーでも神経をつかいそうだ。一方、都市部を離れれば公共交通機関が乏しい地域が広がる。

 こうした状況のビクトリア州で免許行政を担うのは「ビクロード」という州政府機関だ。州内で個別判断によって運転が認められている認知症の人は5500人(昨年7月時点)。

 運転可否の判断のため、ビクロードは運転継続を望む認知症のドライバーに対し、医師の意見書と作業療法士の意見書の提出を求めるのが一般的だ。

 日本ではドライバーが「認知症」と診断されれば、免許当局の公安委員会が運転免許を取り消しか停止にする。制度上、免許当局に判断材料を提供する医療専門職は、「医師」だけだ。一方、ビクトリア州では「医師」と「OT」が独立してドライバーと向き合い、免許当局に判断材料を提供している。

 OTはリハビリを専門とする医療職だ。日本では病院や介護施設にいることが多い。病気や事故の影響で日々の生活に不自由がある人と一緒に食事や入浴といった動作のリハビリをしたり、住宅改修の提案など環境整備に努めたり。不自由のある人たちが少しでも生活しやすくなるように、サポートするのがOTの役割だ。

 運転と安全の問題に長年取り組んできたビクトリア州法医学研究所のモリス・オデル臨床法医学部門長は、「運転を認めるかどうかの個別判断を機能させるために、OTの運転評価を制度的に位置づけておくことは欠かせない」と話す。

■認定OTの役割

 OTはいったいどんなことをやっているのか。認知症はOTにとって評価が難しい症状なのか。具体的に聞こうと、メルボルンとその近郊でOTを訪ねた。

 まず会ったのは、スウィンバーン工科大学で「認定OT」の養成研修を統括するロビン・ラブルさん。認定OTになるためには、実務経験2年以上のOTが2週間の研修を受けなければならない。その後、ビクロードに登録して初めて「認定OT」になる。

 ビクロードに提出する運転評価の意見書を書けるのは、認定OTだけだ。ラブルさん自身も認定OTで、認知症の運転評価を研究しながら、実際の運転評価も行っている。

 ラブルさんに、取材の趣旨を伝…

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