【動画】山上直樹医師が紹介するひじのセルフチェック方法=小俣勇貴撮影
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■肩・ひじを守る

 今春の選抜に出場した日大三(東京)のエース桜井周斗には2度の骨折経験がある。小学6年の秋に左肩を、中学2年の春先には左ひじを剝離(はくり)骨折した。怖いのは、どちらも「痛みとか違和感とか、予兆がまったくなかった」ことだ。

 野球を始めた小1から投手。上級生になると、毎週末の試合で全7イニングを完投した。小6の秋にはプロ野球ヤクルトのジュニアチームにも選ばれた。午前中に自チームで完投し、午後から選抜チームの練習で投げることもあった。

 異常が出たのは11月中旬。「紅白戦の試合中盤、投げた瞬間に腕が飛んだような感覚になり、力が入らなくなった」。約1カ月間、投げることをやめ、選抜チームの大会に登板することもできなかった。

 硬式の「新座シニア」でプレーしていた中2の時もそう。試合中盤、直球を投げた瞬間に「ひじから先が飛んだような感覚。伸びも曲がりもしなくなった」。再び、投げられるまでに1カ月を要した。

 桜井のように、小学校高学年から中学の成長期に、肩やひじを痛める選手は後を絶たない。成長期は骨の強度が低く、酷使すれば、骨が変形したまま体が成長してしまう可能性もある。高校に入っても、尾を引くケースは少なくない。

 「手術はもちろん、長期間の離脱は球児にとって最悪の事態でしょう」。そう話すのは、神戸市中央区の「あんしんクリニック」で、肩・ひじを専門的に診る山上直樹医師(47)。同クリニックは今年1月から4月まで月に1度、小中学生を対象に無料でひじのエコー(超音波)検査を実施、計787人が受診した。

 複数ある「野球ひじ」の症状の中で最も発症率が高いのが、投球動作の際に強い力がかかって骨が欠けたり、剝(は)がれたりする内側の剝離骨折だという。ただ、山上医師がより問題視するのは「離断性骨軟骨炎」(OCD)。計4回の検診で、19人にOCDの疑いが見つかった。

 ひじの関節部分には動きをスムーズにする軟骨がある。これが投球動作を繰り返すうちに「虫食い」のように剝がれ落ちていく症状がOCDだ。進行すれば、曲がりにくくなるなどの動作障害の要因になる。

 問題は初期段階では全く痛みがないことだ。早期発見できれば大半が治癒するが、気づかないまま「虫食い」が悪化し、痛みが出る頃には手術が必要な状態になっていることもある。復帰には3カ月から半年ほどを要する。

 岩城大輔君(小6)は1月の検診で右ひじに初期のOCDが見つかった。「痛みはなかった」。所属する神戸市北区の軟式チーム「小部東アローズ」で主将兼エースだったが、今も投球を自粛している。週に1度、治療に通いながら、試合ではランナーコーチを務めている。

 チームを運営する谷中康夫さん(53)は「小中学生は無理する時期とちゃう」と見守る。父親の重之さん(51)は「野球ができないイライラはあると思う」と心中を察しつつ、「投げていい?」と聞かれるたび、「あかん。我慢しよ」と制している。

 日大三の桜井は中学時代の監督に感謝している。ひじの剝離骨折から約1カ月で投げられるようになったが、投手をさせてもらえなかった。

 「今無理しても意味がない」と言われ、それから高2の夏前まで外野手に専念した。「すぐに投手に戻っていたらまたけがをしていたかも。野手をやったことで投げる力がついた部分もあると思う」

 剝離骨折やOCDの主な原因は「投げすぎ」だ。投げないのにこしたことはないが、十分な柔軟運動で筋肉をほぐしたり、定期的に検診を受けたりすることで、リスクは下げられる。山上医師は言う。「柔軟性が高ければ、ひじや肩に負担の少ない正しいフォームを維持できる。指導者が柔軟運動の重要性を説いたり、チームでそろって検診にいったりすることを勧めます」。予防には大人の理解とサポートが不可欠だ。(小俣勇貴