【動画】熊本市に広がる防災井戸=横田千里撮影

■なるほどハッケン 九州・山口

 楽しそうにポンプを上下に動かし、井戸から水が出ると笑う園児たち。ここは銀行の駐車場。こんなところに、なぜ井戸が――。

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 熊本県の中部、宇城市松橋町の肥後銀行松橋支店で先月、「防災井戸」の開水式があり、地元の松橋保育園の園児らが集まった。

 肥後銀行は今年、県内10カ所に生活用水をくみ上げる防災井戸を造った。いずれも手動式で、1回につき1・2リットルの水が出る。災害時に近隣住民に開放できるよう駐車場などに設けた。小中学校の防災や環境学習の教材として活用することも考えているという。

 肥後銀行では昨年4月の熊本地震の際、39店舗で断水。雨水をためていた本店や関連企業から、9日間で水約1万7500リットルを運んだ。担当者は「飲み水はもらえても、トイレが流せない。生活用水の必要性を痛感した」と話している。

 阿蘇山のふもとから有明海にかけた熊本県中部は、数十万年前から数回噴火した火山灰が積もってできた水を通しやすい地層があり、大きな水がめになっている。県によると、県中部の11市町村の水道の水源はほぼ100%が地下水だ。飲料用の井戸が多いため、水道普及率は87・3%(2016年3月末)と47都道府県で最も低い。

■熊本の企業・自治体、防災連携

 弁当や総菜を製造・販売し、熊本や福岡、佐賀、大分各県で140店舗を直営するヒライ。熊本市西区の本社工場には熊本地震後の数日間、近隣の住民らが井戸水を求めて訪れた。

 工場内の井戸は二つ。20~30年ほど前に設けた飲料用で、料理の煮炊きや洗い物に使う。毎月、専門業者の水質検査を受けている。

 近くでバイオリン教室を開く広瀬卓さん(51)も自宅が断水。飲料水は知人にペットボトルを届けてもらうなどしたが、トイレの水などに困り、1週間ほど水をもらいに行った。「本当に助かった」と広瀬さん。「もう大きな地震はないと思うが、あってもどうにかなるという安心感がある」

 「水の都」と呼ばれる熊本市には「水道町」「水前寺」など「水」の名のつく地名が多い。鎧甲をつけたまま水中で戦う「小堀流踏水術」は肥後細川藩が推奨したとされ、県の重要無形文化財に指定されている。2013年には、水資源の保全管理に取り組む都市や機関を表彰する国連の「生命の水」の最優秀賞に、日本で初めて熊本市が選ばれた。

 そんな「水の都」でも、熊本地震では各地の水道管が破損した。4月16日の本震直後は市内全域で最大約32万6千戸が断水。長いところでは17日間も水道が使えず、市内11の企業が無償で井戸水を提供した。

 市は今年5月、災害時に井戸水を提供してもらえるよう、50の企業や病院などと協定を締結。半分以上が年間3万立方メートル以上の水が出る大きな井戸を持つ。飲料用と生活用水用に分け、災害時、生活用水はすぐに提供する一方、飲料水は水質検査をして、安全確認後に提供する。市水保全課の首藤美佐・主任主事は「徐々に提携先を増やしたい。普段から井戸の場所を知ってもらいたい」と話す。

 水の循環を研究する熊本大学の嶋田純・名誉教授は市との協定の意義について、「安全性に不安があり、井戸を持っていても提供をためらう企業もある。行政が仕組みをつくり水質検査を担うことで、スムーズに対応できる」と話す。

 嶋田名誉教授によると、こうした「防災井戸」は1995年の阪神・淡路大震災以来、注目されてきた。

 大分県沿岸部では南海トラフ地震への備えとして、佐伯市が54カ所、津久見市が47カ所の井戸を一覧できるマップを作った。大分市も「災害時市民開放井戸」として347カ所を登録し、ホームページで公開している。福岡県広川町では2013年から、災害時に開放する個人宅などの井戸を行政区ごとに1~2カ所ずつ、計40カ所を選び、看板を置くなどして周知している。

■本紙・KBC連動企画

 九州・山口「8県」のさまざまな謎に迫り、新たな「発見」をお届けする「なるほどハッケン 九州・山口」。原則月2回、各県の地域版に掲載し、このうち1回は九州朝日放送(KBC・福岡市)との連動企画として、ラジオやインターネットでも発信します。KBCラジオの番組「夕方じゃんじゃん」内で詳しく報告された今回の様子は、KBCの特設ページ(http://www.kbc.co.jp/r-radio/naruhodo/別ウインドウで開きます)でお聴きいただけます。(杉山歩、池上桃子)