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 自分の子どもが通う中学校に、給食があるのか、ないのか。それは大問題です。困窮家庭はなおさらではないでしょうか。朝日新聞は全国74の主要市区を対象に、公立中学校の完全給食実施率を調査。市区によって大きなばらつきがあることを5月6日の紙面で報じたところ、読者のみなさんから給食実施を求める声が届きました。これを機に、中学校給食の現状と歴史に目をこらしてみると、「食のセーフティーネット」のほころびが見えてきました。

■弁当作り 大きい負担

 「完全給食」とは、主食、おかず、牛乳すべてがそろったもののこと。実施率0%の横浜からは切実な内容が目立ちました。

●横浜市の主婦(40) 小中学生と幼稚園児の3人の子どもがいます。朝4時半に起きて、弁当や朝食を作り、家計のためにパートへ。市は昨年度から予約制配達弁当「ハマ弁」を始めましたが、一食470円で週2回の利用だけでも月4千円近く。小学校の給食費約4千円と比べて割高です。市が給食をしない理由は「弁当が定着しているから」だそうですが、誰の意見ですか? 給食がないから弁当を作る。それだけです。ひとり親や生活保護世帯だけではなく、一般家庭でも負担は大きいです。

●同市の会社員の女性(39) 保育園に通う2人の子どもが中学生になったら、朝夕ご飯の支度に加えて弁当作りもして出勤するのかと思うと、不安です。通勤時間がかかり、収入も多くありません。栄養バランスのとれたものをたくさん食べさせたい。でも時間がないからと、同じ食材の手抜きメニューになりそう。女性が働きやすい環境とは言えません。

●同市の会社員の男性(31) 横浜が0%とは知りませんでした。子どもがいないので身近に感じることがありませんでした。家庭環境の違いで栄養格差が生じてしまわないよう、教育を受ける権利の一つとして給食は自治体ごとに差がなく与えられるべきです。

●福岡市のパートの女性(46) 子どもの食事は、母親が用意して食べさせるのが子どもの幸せ、母親の幸せ!というつくりあげられた既成概念が根底にあるようだ。私は小学生の子を育てながら働いている。長期休みは学童保育のお弁当作りがとても負担。時代は変わってきているのだから、業者をうまくとりいれ、家庭や母親の負担を減らしてほしい。乳幼児でも中学生でも、子育てにはお金がかかる。国も女性の社会進出を後押ししているのだから、義務教育の間は援助してほしい。

■待機児童解消の延長戦で 7%→100%予定の大津・越直美市長

 給食実施率が6.6%と低水準の大津市。しかし、一気に、2019年度中の100%達成を予定しています。越(こし)直美市長(41)に、その経緯を聞きました。

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 私も大津の中学に通い、給食がないのが当たり前でした。初当選した2012年、スクールランチという事前予約制の配食サービスの開始を公約に掲げました。弁当を持って来られない時の「栄養のある昼食」として最優先に進め、13年度に開始。給食センターを造るには時間がかかり、予算も大きい。給食は、スクールランチをしながら議論しようと考えました。

 しかし当初、市教育委員会の教育委員からスクールランチに疑問の声があがりました。「愛情弁当を否定すべきではない」という意見です。その後、市教委にスクールランチ推進室を設置しました。当時、教育委員の中に、市立小中学校に通う子どもの保護者がいなかったので、入れ替わりのタイミングで現役保護者に入ってもらいました。

 給食には、栄養バランスのとれた食事の確保という役割もあります。就学援助で給食費の補助を受ける小学生の割合は19%です。朝食や夕食を食べられていない可能性もあり、昼食が重要になってきます。

 市の調査では、小中学生の保護者の7~8割が給食を望んでいました。子育て世代と対話すると、母親たちから「弁当作りの負担が大きく、仕事を辞めようと思った」という声を聞きました。

 私は、女性が働いて子どもも持てる社会をつくることを目標の一つにしています。まず待機児童問題に取り組み、3年で解消しました。フルタイムで働く0~5歳の子を持つ女性の数が約50%増えました。その年代の子どもが中学生になった時、就労している母親がさらに増えていると予想されます。待機児童解消の延長線上に、中学校給食の実施があるのです。

■給食0%の横浜市 予約制弁当導入 弁当の運用「改善へ努力」

 学校給食か、親の愛情弁当か。長年の議論の末、横浜市は2014年に、家庭弁当を基本とする「横浜らしい中学校昼食のあり方」をまとめました。中学校昼食を「個に応じた食」や「自ら選択し、社会を生き抜く総合的な力を、食を通じて培うこと」と位置づける内容です。

 ただ、弁当を持って来られない場合に備え、市は昨年度から事前予約制の「ハマ弁」を始めています。利用率は1.2%。ご飯、おかず、汁物、牛乳で470円です。

 困窮家庭を対象にした就学援助を受ける中学生は、市内に約16%(15年度)います。一般的に給食は就学援助の対象ですが、ハマ弁は給食ではないので対象外です。市教委は、保護者不在など家庭の事情で昼食が用意できない生徒に、支援が必要だと判断すれば、ハマ弁を無料提供する運用を今年1月から始めました。

 市教委は給食の要望が根強くあることは認識したうえで、「市民の声を聞きながら、ハマ弁をさらにいいものにしていくよう努力していきます」(健康教育課)と話しています。

■実施の地域差 横並び意識が影響

 小学校と違って、中学校はなぜ完全給食の実施率に大きな地域差があるのか。「給食費未納 子どもの貧困と食生活格差」の著者、跡見学園女子大の鳫(がん)咲子教授に聞きました。

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 中学校の完全給食の実施率が低い神奈川県を見ると、実施していない横浜市周辺の自治体と、実施している県西部とに、地域がくっきり分かれます。関西でもそういう傾向があり、横並び意識はあるでしょう。

 歴史的な経緯もあります。中学校は義務教育になったのが戦後で、小学校に比べ給食開始は遅れがちでした。占領終了とともに給食への海外からの支援が終わると、小学校で給食費が払えない未納問題が生じました。そんな状況の中、中学校で給食を始めるのは保護者の負担からも難しい地域がありました。

 一方、農村地域では農繁期や冠婚葬祭で共同炊事をし、同じものを食べることが地域に根づいていて、給食も比較的早く広まったとも考えられます。(河合真美江)

■始まりは貧困対策 普及伸び悩み

 学校給食の歴史をひもとくと、今で言う「子どもの貧困」対策として始まったことがよくわかります。

 第2次世界大戦での中断を経て、1954年に学校給食法が制定。小学校の給食に法的根拠が与えられ、普及していきます。

 2年後に中学にも適用されますが、実施率の伸びが鈍る時期がきます。地域ごとの財政事情に加え、経済成長とともに専業主婦というライフスタイルが広がり、遅くとも70年代には「愛情弁当論」が語られるようになりました。

 バブル崩壊後、格差が社会問題化。再び貧困対策としての役割が給食に期待されるようになっています。

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 仕事を掛け持ちしているあるシングルマザーに取材した時、帰宅後は、夕食と翌朝学校に持って行かせる弁当の準備に追われると聞きました。「弁当を買うと高くつく。体力か財布か、どちらを消耗するか。うちには体力の選択肢しかない」

 共働き世帯でも、毎日の弁当作りは負担です。「難しい思春期に弁当が親子のコミュニケーションに役立つ」という考えを否定するつもりはありませんが、コミュニケーションの取り方は人それぞれです。

 今回、「中学校の給食」は新しいようで古くからある課題だと分かりました。「弁当を親が作ればよい」「買えばよい」と言って議論を止めてはいけない社会状況だと思います。(中塚久美子)

■これまでのシリーズ

 「子どもと貧困」シリーズでは、学校や地域における、見えにくい親子の貧困について取材し、解決策を模索してきました。

 その中で、日々の「食の保障」は大きなテーマの一つです。民間の取り組みとして「子ども食堂」の広がりを報じる一方、公的な責任として、身近な学校給食に着目。家庭での栄養格差を埋める役割があることや、増えつつある給食費無償化の動きについて紙面で紹介してきました。

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 ご意見はasahi_forum@asahi.comメールするか、ファクス03・5541・8259、〒104・8011(所在地不要)朝日新聞オピニオン編集部「中学校給食」係へ。

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